計画研究
本研究では炎症に起因する病態における宿主とその微小環境との相互作用は、生体リガンドを介した化学コミュニケーションとして作用すると仮説している。抗がん薬の領域において免疫チェックポイント阻害薬は、その効果及び有害事象に、ヒト-細菌叢との間の化学コミュニケーションの理解が重要と考えている。炎症性腸疾患および炎症が介在する消化器がん、中枢神経炎症疾患である多発性硬化症とアルツハイマー病に焦点をあて、微小環境における宿主と細菌叢との相互作用を解析することにより、疾患の分子機構の解明と治療薬の創出につなげることを目的とした。具体的には、1) 腸内細菌叢のメタゲノム、メタトランスクリプトーム解析技術の向上、2)炎症性腸疾患患者における腸上皮細胞、腸内細菌叢のシーケンシングによる炎症性腸疾患の発がんリスクに対する影響および宿主・微生物間のインタラクションと病態との関連性についての検討、3)免疫チェックポイント阻害薬の投与を受けた肝細胞癌患者の糞便中のメタゲノム、メタトランスクリプトーム解析による免疫チェックポイント阻害薬の副作用及び効果に及ぼす常在細菌叢の影響の検討、4)中枢神経系(CNS)炎症性疾患である多発性硬化症(MS)およびアルツハイマー病の発症に対する腸内細菌叢の影響の検討、を目的とした。
2: おおむね順調に進展している
これまでに、炎症性腸疾患の腸内細菌叢の解析から特有の細菌叢プロファイルを見出した。潰瘍性大腸炎の病態において重要と示されたガンキリンに関与する細菌叢プロファイルの同定をさらに進めている。がんにおける常在細菌叢と宿主の化学コミュニケーションの理解・制御に向けて、DSS/AOMによる大腸がん発がんモデルにおいて、宿主の免疫応答性によって誘導される組織の線維化をニコチンアミドモノヌクレオチドが抑制し、同作用を通じて大腸がんの腫瘍形成を抑制することを明らかにしてきた。また細菌叢プロファイルの同定、MSの病態の解明を進めており、MSに特定の腸内細菌叢が関与していることが見いだされつつある。中枢神経炎症疾患である多発性硬化症とアルツハイマー病のマウスモデルを用い、16S rRNA解析による細菌叢変化とInternal transcribed spacer 1(ITS 1)解析による真菌叢変化と中枢枢神経内のトランスクリプトームの関連性、両者のクロストークに介在する血中因子の同定を明らかにした。加えて、多発性硬化症の実験的自己免疫性脳脊髄炎モデルに対して、掛谷ら(A01)が開発中の水溶性プロドラッグ型クルクミンCMGの活性本体であるクルクミンの薬効検討を行い実験モデルの臨床症状の軽減が認められている。これまでの研究は、総じて概ね順調に進んでおり、これらの結果に基づき、引き続き、領域内連携によるヒト・細菌叢間化学コミュニケーションを制御する新規生物活性リガンドの開発へ繋げる。
1) 炎症性腸疾患(IBD)患者における腸上皮細胞、腸内細菌叢のシークエンシング:宿主・微生物間の相互作用と病態との関連性を解析する。2) IBD患者の腸上皮細胞、腸内細菌叢の16S rRNA解析による宿主・微生物間の相互作用と病態との関連性の検討を検討する。3) 抗PD-1抗体による免疫関連副作用に関する宿主・微生物間の相互作用の検討:抗PD-1抗体投与患者の炎症部と周辺部の腸内細菌叢のトランスクリプトーム測定を行い、宿主-細菌叢間の相互作用を解析する。4) 炎症と微小環境における宿主・微生物間の相互作用の検討:IBDから発癌を惹起するマウスモデルにより腫瘍部とその周辺環境の遺伝子発現解析、腸内細菌叢のメタトランスクリプトームを実施し、炎症と腫瘍形成を促進する相互作用を解析する。また腸内細菌叢が微小免疫環境および抗PD-L1抗体の効果に及ぼす影響を明らかにする。5) IBD関連大腸がんにおける線維化に重要な役割を果たす抗老化因子Sirtuinについて、腸内細菌叢との相互作用が腫瘍形成に及ぼす影響を明らかにし、その抑制化合物の効果を検討する。6) 大腸癌発がん過程の組織線維化の抑制機構と細菌叢との相互作用:宿主の免疫応答性によって誘導される組織の線維化をニコチンアミドモノヌクレオチドが抑制し、同作用を通じて腫瘍形成を抑制の有無を継続して検討し、細菌叢との相互作用をメタゲノム解析により宿主の免疫応答との関連を明らかにする。7) 腸内細菌叢と中枢神経炎症疾患のクロストーク:多発性硬化症とアルツハイマー病のマウスモデルにて、による細菌叢(16S rRNA)、真菌叢変化(ITS1)と神経組織(トランスクリプトーム)の関連性を検討し、介在する血中因子の同定を継続する。阻止抗体やノックアウトによる検証実験等を実施する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件、 オープンアクセス 9件) 学会発表 (17件) (うち国際学会 1件、 招待講演 9件) 図書 (2件)
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