研究領域 | 化学コミュニケーションのフロンティア |
研究課題/領域番号 |
17H06405
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
入江 一浩 京都大学, 農学研究科, 教授 (00168535)
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研究分担者 |
柳田 亮 香川大学, 農学部, 准教授 (10598121)
村上 一馬 京都大学, 農学研究科, 准教授 (80571281)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | アプリシアトキシン / プロテインキナーゼC / 発がんプロモーター / がん細胞増殖抑制 |
研究実績の概要 |
本研究代表者らは、アメフラシ由来のアプリシアトキシン (ATX) の構造を論理的に単純化することによって、PKC活性化能とがん細胞増殖抑制活性を選択的に抽出した10-Me-Aplog-1を開発するとともに、その大量合成に成功した。本研究では、10-Me-Aplog-1のプロテインキナーゼC (PKC) アイソザイムを介した化学シグナルを、様々な種類のがん細胞株において分子レベルで解析することにより、合成経路の短縮も含めて抗がん剤シードとしての構造最適化を行い、動物レベルでの有効性を検証することを目的としている。 今年度はまず、10-Me-Aplog-1のがん細胞増殖抑制機構に関わるPKCアイソザイムが、主としてPKCαあるいはPKCαおよびδであることを、Aplog類に感受性の高い3細胞株において明らかにした。一方で、Aplog類に感受性が低い6細胞株においてもPKCαおよびδが感受性株と同程度に発現していたことから、PKCの下流のシグナル伝達の違いに興味がもたれた。 一方、スピロ環とラクトン環を同時に形成させることによる合成経路の短縮を目的として、10-Me-Aplog-1の4位炭素原子を酸素原子に置換したアセタール型アナログを、m-hydroxycinnamic acidから最長直線工程数18段階で合成した。PKCδのC1ドメインに対する結合能を調べた結果、10-Me-Aplog-1よりも1オーダー低かった。また、39種のがん細胞株に対する増殖抑制能を評価した結果、10-Me-Aplog-1の増殖抑制能には及ばなかったが、副作用である炎症作用はまったく見られなかった。以上の結果より、10-Me-Aplog-1のPKCδ結合活性およびがん細胞増殖抑制活性には、4位付近の疎水性が重要であることが示唆された。本知見は、10-Me-Aplog-1の更なる構造最適化を行なう上で基礎となるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、10-Me-Aplog-1に感受性の3種のがん細胞株において、10-Me-Aplog-1の増殖抑制に関わるPKCアイソザイムとして、PKCαおよびδを同定することができた。今後、これらのPKCアイソザイムの下流のシグナル伝達を解析することにより、10-Me-Aplog-1の化学コミュニケーションの全容解明が期待できる。一方、10-Me-Aplog-1の、4位の炭素原子を酸素原子で置換した3位アセタール型アナログの合成に成功した。今後、本化合物の更なる構造最適化により、合成の容易な新規抗がん剤シードの開発につながる可能性がある。 ごく最近、京都大学ウイルス研の明里宏文教授との共同研究により、10-Me-Aplog-1は、HIV-1を再活性化する有用なLatency Reversing Agentであることが明らかになった。 以上より、本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度合成に成功した10-Me-Aplog-1の3位アセタール型アナログは、アプリシアトキシンの3位とは逆の立体配置をもつ化合物が主生成物として得られる傾向がある。また、4位の酸素原子がPKCδに対する結合能を低下させることから、スピロケタール部分のメチル基の導入位置を種々検討することにより構造最適化を目指す。また、10-Me-Aplog-1のスピロケタールを6員環に置換した超単純化アナログの合成にも挑戦する。さらに、機械学習による新規PKCリガンドの探索を、A03班の榊原康文教授ならびに斎藤裕博士と共同で進めていく。 一方、10-Me-Aplog-1のがん細胞増殖抑制機構について、PKCαおよびδの下流のシグナル伝達に焦点を絞って解析する。
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