研究領域 | 化学コミュニケーションのフロンティア |
研究課題/領域番号 |
17H06405
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
入江 一浩 京都大学, 農学研究科, 教授 (00168535)
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研究分担者 |
柳田 亮 香川大学, 農学部, 准教授 (10598121)
塚野 千尋 京都大学, 農学研究科, 准教授 (70524255) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | シグナル伝達 / プロテインキナーゼC / 癌 / 有機化学 / 薬理学 / 機械学習 / マクラマイシン / アロタケタール |
研究実績の概要 |
本研究代表者らは、アメフラシ由来のアプリシアトキシン (ATX) の構造を論理的に単純化することによって、PKC活性化能とがん細胞増殖抑制活性を選択的に抽出した10-Me-Aplog-1を開発するとともに、その大量合成に成功した。本研究では、10-Me-Aplog-1のプロテインキナーゼC(PKC)アイソザイムを介した化学シグナルを分子レベルで解析することにより、難治性疾患(がん、アルツハイマー病、HIV感染症)の治療薬として構造最適化を行うことを目的としている。さらに、ATX以外の新規PKCリガンドを機械学習により探索し、これらの全合成を行い、同様の医薬品シーズとしての展開を目指している。 今年度はまず、ヒトiPS細胞より作製した神経細胞ならびにラット一次ニューロンにおけるアミロイドβ42 (Aβ42) の産生と毒性オリゴマー化に及ぼす10-Me-Aplog-1の効果を、井上治久教授(京大iPS研)ならびに久米利明教授(富山大)と共同で調べた。その結果10-Me-Aplog-1は、Aβ42の産生と毒性オリゴマーの形成を抑制することが明らかになった。 次に、A03班の榊原康文教授、斎藤裕博士と共同で、PubChemデータベースに登録されている約1億個の化合物の中から、機械学習による新規PKCリガンドの探索を行った。PKCのC1ドメインに関する知識をもつ人間による二次スクリーニングの結果、約20個の候補化合物に絞り込んだ。それらの中から、植物内生菌が産生するマクラマイシンならびに海綿由来のアロタケタール類に着目した。マクラマイシンは、PKCαならびにδのC1ドメインに対して、それぞれ約10 μM、50 μMの結合阻害定数で結合した。一方、アロタケタール類の入手が困難であったため、それらの単純化アナログを設計し、(R)-carvoneから20段階での全合成を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、10-Me-Aplog-1が、アルツハイマー病(AD)の発症に重要な役割を果たしているアミロイドβ42 (Aβ42) の産生と毒性オリゴマー化を阻害することを、ヒトiPS細胞ならびにラット一次ニューロンにおいて明らかにすることができた。今後、10-Me-Aplog-1の構造の更なる最適化により、AD治療薬の開発につながる可能性がある。 一方、機械学習とPKCのC1ドメイン構造に関する知識を有する人間との共同により、1億個のPubMedデータベースよりマクラマイシンならびにアロタケタール類を選抜することに成功した。特に、Andersenらにより海綿から単離されたアロタケタール類は、潜伏HIV(ヒト免疫不全ウイルス)を活性化させることから、新規PKCリガンドである可能性がきわめて高い。今後、単純化アナログの設計、全合成による新規医薬品シードとしての研究展開が可能となった。 以上より、本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度合成した10-Me-Aplog-1の3位アセタール型アナログは、天然物アプリシアトキシン(ATX)の3位とは逆の配置をもつエピ体が主生成物として得られる傾向がある。また、4位の酸素原子がPKCδ-C1Bドメインに対する結合能を低下させることから、メチル基の導入位置を種々検討することにより構造最適化を目指す。これらのアセタール型アナログ類を効率的に合成すべく、最近、アルドール反応を鍵反応とした段階数の少ない合成経路をほぼ確立している。 一方、機械学習により選抜されたアロタケタール類の入手が困難であったため、ごれらの単純化アナログを設計し、(R)-carvoneから20段階での全合成を進めて行く。この単純化アナログに高いPKC結合能が認められれば、これらの構造をPKCδ-C1Bドメインとのドッキングシミュレーションにより最適化し、それらの全合成ならびに各種活性評価(PKC結合能、がん細胞増殖抑制活性、HIV活性化能)を機動的に進めていく。
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備考 |
アウトリーチ活動 入江一浩.アミロイドβタンパク質とは?~アルツハイマー病研究の最先端~ 第98回サイエンスカフェ伊丹,伊丹市,令和元年6月1日;明里宏文,鷲崎彩夏,入江一浩.人類はエイズを克服できるか? 京都大学アカデミックデイ2019,京都市,令和元年9月15日.
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