研究領域 | 化学コミュニケーションのフロンティア |
研究課題/領域番号 |
17H06406
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
村田 道雄 大阪大学, 理学研究科, 教授 (40183652)
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研究分担者 |
土川 博史 大分大学, 全学研究推進機構, 客員研究員 (30460992)
此木 敬一 東北大学, 農学研究科, 准教授 (40292825)
山下 まり 東北大学, 農学研究科, 教授 (50192430)
西川 俊夫 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (90208158)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 天然物リガンド / 化学コミュニケーション / イオンチャネル / 細胞膜作動性リガンド / 膜貫通ドメイン |
研究実績の概要 |
a) 膜タンパク質の機能ドメインと海洋天然物の相互作用: 新たな天然物リガンドとして、神経変性疾患の医薬品リード化合物として期待されるスピロリドに着目し、そのファーマコフォアの効率的な合成法を確立することで、未決定であった4位の立体配置を決定した。さらに、環状イミンの安定性を解析することで、天然物の特徴的な安定性に寄与する構造的要因を考察した。 b) 電位依存性イオンチャネルに特異的に作用する生物活性リガンドの創製: フグ毒テトロドトキシン(TTX)推定生合成前駆体群の合成を進め、Tb-242Cの初の全合成に成功した。また、カリウムチャネル(Kv)の阻害活性が報告されている海産天然物アプリシアトキシン(ATX)/オシラトキシン(OTX)類の合成を進め、OTX-D, E, Fの全合成とneo-debromoATX-Bの全合成に成功し、天然物の立体化学を訂正した。また、OTX-D, E, Fの生物活性評価を行なった。 c) 新しい作用様式でイオンチャネルに作動する天然物リガンドの探索と機構解明:電位依存性Na+チャネル(Nav)に作用する化合物を探索する簡便法を確立したので、実際に海洋生物を探索して陽性化合物を同定した。CHO-K1細胞を用いた蛍光生細胞観察により海洋天然毒マイトトキシン(MTX)が細胞内にCa2+を流入させ、微小菅の脱重合を誘引した後、細胞膜の一部を膨らますこと(Blebbing)を明らかにした。 d) 天然物リガンドと生体膜の相互作用解析: 脂溶性天然物リガンドとその膜受容体の相互作用解析を行う場合、生体膜中でのリガンドの挙動を解明するために、本年度はメチル分岐脂肪酸を有する合成脂質であるDPhPCに着目し、その脂質二重膜中でのアルキル鎖の特徴的な配向を明らかにした。また、サポインとそのモデル化合物についても、生体モデル膜における相互作用の分子機構を解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
具体的には、天然物リガンドであるスピロリドについて合成化学的な方法論を開発することに成功し、ファーマコフォアを含む中心骨格構造の安定性と活性の系統的な評価が可能となった。また、メチル分岐脂質であるDPhPCに関する研究においては、2本のアルキル鎖が膜の浅い部分で特徴的な配向を有し、かつそれぞれのsn-鎖に特異的であることを見出した。 TTXの推定生合成中間体の一つhemiketal-TTXの合成が最終段階にある。またATX/OTX類の一つOTX-Iのメチルエステルの合成にも成功し、天然物リガンドの合成供給が順調に進展している。また予備的実験で、新たにクランベシン関連化合物がある種のカルシウムチャネル(Cav)の阻害活性を示すことが明らかになった。 国際共同研究1件を含む3件の領域内共同研究の成果を基に、MTXが細胞膜脂質に作用し膜透過性を亢進することが推察された。Blebbingは他の薬剤や天然有機毒においても観測されるが、同現象を誘引するMTX濃度は著しく低いことを特徴とする。マウス神経芽細胞腫Neuro2Aとveratridine/ouabainを用いた評価系において、数種のセンブレン類が陽性を示した。また、海藻中毒原因物質ポリカバノシド類も陽性を示した。
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今後の研究の推進方策 |
a) 昨年度で終了した。 b) 電位依存性イオンチャネルに特異的に作用する生物活性リガンドの創製:TTX推定生合成前駆体のうちhemiketal-TTX とTb-226, Tb-242B, Tb258などの合成を完了させ、各種イオンチャネルの阻害活性を評価する。また、ATX/OTXの新規類縁体の合成とKv阻害活性を評価する。クランベシンが、Cavの阻害活性を示すことが明らかになったため、その詳細を調べる。これらの研究で、イオンチャネルに特異的に作用するリガンドを創製する。 c) 新しい作用様式でイオン透過性を亢進する天然物リガンドの探索と機構解明:MTXの作用機序解明に向けて、未だ不明である細胞内へCa2+を流入させる分子機構を明らかにしたい。そのため、所望の組成で作成したリポソーム膜に対する膜透過性亢進を分光学的手法ならびに電気生理学的な手法で観測する。比色法によるNav阻害活性試験で陽性であったセンブレンおよびポリカバノシド類の作用機序の解明および誘導体の作製と構造活性相関研究を行う。 d) 天然物リガンドと生体膜および膜タンパク質の機能ドメインとの相互作用解析: 海洋天然物スピロリドの活性中心構造を基盤とした構造活性相関および海洋生物毒イェッソトキシンの膜タンパク質標的ドメイン構造の推定を行う。さらにスフィンゴミエリンなど天然脂質リガンドの特徴的な機能発現の基盤となる、脂質膜中での分子間相互作用を明らかにする。
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