計画研究
本研究の目的は、天然物と合成化合物の中間にあたる「人工栄養素結合体」という新しい分野を開拓することである。天然物である栄養素の複数を網羅的に化学結合させた人工栄養素結合体のライブラリーを化学合成し、領域内共同研究を含めてさまざまな細胞アッセイでスクリーニングする。活性のある結合体のメカニズムを解析し、化学コミュニケーションを理解する。天然物の利点は、生物活性に富むことである。しかし、天然物の数には限りがある。一方、合成化合物の利点は、ほぼ無限に合成できることである。しかし、それらの多くは生物活性を示さない。栄養素という天然物の人工的な結合体は、生物活性に富む合成化合物になるだろう。また、栄養素は細胞に取り込まれやすく安全であるので、それらの人工結合体も細胞透過性に優れた安全な化合物である可能性が高い。医薬品開発に新しい考え方を提供できるかもしれない。平成29年度は、①人工栄養素結合体ライブラリーの作成を完結させた。ヒトの体内には様々な栄養素(Nutrients)が存在している。例えば、脂質、アミノ酸、糖質、核酸、ビタミン、そして、それらの代謝物である。栄養素は細胞に取り込まれやすく、補酵素や生体分子の構成物、時にはシグナル分子として、生体内で利用される。このため、栄養素は疾病を予防するサプリメントとして利用されたり、安全な医薬品の源流となってきた。これらの栄養素や代謝物の複数を化学結合させた栄養素結合体を網羅的に600種化学合成した。
2: おおむね順調に進展している
計画通り、栄養素結合体600種の化学合成を完結し、スクリーニングに着手した。予備的な実験によると、予想通り複数の興味深い化合物を得ることができた。
平成30年度は、研究の第二段階として②細胞ベーススクリーニングにすすむ。様々な代謝のシグナルは、脂質生合成の司令塔であるSREBP (sterol regulatory element-binding protein)という転写因子に影響を及ぼす。SREBPの活性を指標にしてスクリーニングし、SREBP転写因子の活性化を阻害する化合物を同定する。人工栄養素結合体のそれぞれのパーツ自体の活性など、構造活性相関研究をおこなう。人工栄養素結合体ライブラリーには糖脂質様の化合物が多く含まれる。糖脂質が受容体を介して免疫を賦活することが知られており、栄養素複合体が免疫を賦活すると予想される。そこで、マクロファージ細胞を人工栄養素結合体で処理し、IL6の産生をELISA法で計測することで、免疫賦活化化合物を同定する。人工栄養素結合体のそれぞれのパーツ自体の活性など、構造活性相関研究をおこなう。ある特定の脂質受容体に結合して免疫を賦活する栄養素複合体が見つかる可能性がある。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 5件、 招待講演 16件) 備考 (1件)
Journal of Biological Chemistry
巻: ー ページ: ー
10.1074/jbc.RA118.002316
Chemical Communications
巻: 54 ページ: 1355~1358
10.1039/C7CC08686E
http://www.scl.kyoto-u.ac.jp/~uesugi/