計画研究
本研究の目的は、天然物と合成化合物の中間にあたる「人工栄養素結合体」という新しい分野を開拓することである。天然物である栄養素の複数を網羅的に化学結合させた人工栄養素結合体のライブラリーを化学合成し、さまざまな細胞アッセイでスクリーニングする。活性のある結合体のメカニズムを解析し、化学コミュニケーションを理解する。本研究は3段階ですすめている。①人工栄養素結合体ライブラリーの作成、②細胞ベーススクリーニング、③作用メカニズムと化学シグナルの 解析である。2019年度までに、脂質合成の司令塔であるSREBP転写因子を阻害する栄養素結合体DHGを同定した。作用メカニズムと化学シグナルの解析を行い2019年度に最初の栄養素結合体DHGを論文発表した(ACS Chem. Biol., 2019)。免疫を賦活する栄養素結合体については、マクロファージ細胞や樹状細胞でサイトカインの産生を促進する化合物を同定した。この化合物は三個の栄養素が結合したものである。三個のそれぞれの栄養素には免疫活性化能力はない。しかし、一個だけを取り除いた誘導体は活性が高くなった。2019年度までの新学術研究の中で、偶然の発見があった。スクアレン合成酵素(SQS)の阻害剤であるYM-53601を細胞に添加し、紫外線を照射すると、SQSが分解されることを発見し、この分解にはSQSペプチド配列(27アミノ酸)が必要十分であることを見出した。新学術メンバーからアドバイスを得てメカニズム解析を行ったところ、YM-53601から生じるラジカルがSQSペプチド配列(27アミノ酸)を光分解することが分かった。この結果を論文にまとめた(JACS 2020)。
1: 当初の計画以上に進展している
人工栄養素結合体ライブラリー免疫を賦活する化合物を作成し、そこからエネルギー代謝のシグナルを変調するDHGと免疫を賦活するF1Dという二つの生理活性分子の発見に成功した。標的タンパク質の同定は概して困難だが、これらの標的タンパク質を先行して同定した。DHGについては論文発表した(ACS Chem. Biol., 2019)。F1Dについては2020年度の論文発表を目指す。さらに、新学術研究の途中で、光分解ペプチドを偶然に発見し、論文発表した(JACS 2020)。これらの化合物は、エネルギー代謝シグナル、免疫シグナル、ラジカルシグナルを変調する新規物質。当初の計画以上に進展しているといえる。
<免疫を賦活する栄養素結合体> 2020年度は、さらなる分子生物学的なメカニズム解析を行う。予備的な解析によると化合物は200 nmサイズの球状集合体になり、自然免疫を賦活する。F1DはTool Like Receptorを介して自然免疫を活性化すると考えられる。これらの分子生物学的な実験を完結する。また、マウスでワクチンアジュバントとして機能する可能性を予備的な共同研究ですすめたところ、F1Dの誘導体に優れた活性を見出した。さらなる動物実験によって、インフルエンザワクチンのアジュバントとしての活性を確立する。2020年度中の論文発表を目指す。<光分解ペプチド> 2020年度はSQSペプチド配列(27アミノ酸)がROSシグナルペプチドである可能性を探る。まずSQSのC末領域のどのアミノ酸残基が、ラジカルとの反応に重要であるか、アラニンスキャンにより検討する。得られた結果から、ラジカルとの反応に必要なコンセンサス配列を同定する。同定したコンセンサス配列を基に、よりラジカルとの反応性を向上させたペプチドを作製し、ラジカルを検出するためのプローブとして応用する。細胞に過酸化水素処理等を施し、細胞内でラジカルを生成させた際に、どのようなタンパク質が分解されるか、プロテオーム解析により検討する。プロテオーム解析により同定されたタンパク質の中に、上記のコンセンサス配列を含むタンパク質が存在するか確認する。
すべて 2020 2019 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 4件、 招待講演 7件) 備考 (1件)
ACS Chem. Biol.
巻: 15 ページ: 632-639
10.1021/acschembio.9b00962
J. Am. Chem. Soc.
巻: 142 ページ: 1142-1146
doi.org/10.1021/jacs.9b09178
日本農芸化学会機関誌「化学と生物」
巻: 58 ページ: 141-142
巻: 14 ページ: 1860-1865
10.1021/acschembio.9b00444
https://www.scl.kyoto-u.ac.jp/~uesugi/ja/index.php