研究領域 | 化学コミュニケーションのフロンティア |
研究課題/領域番号 |
17H06409
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
菊地 和也 大阪大学, 工学研究科, 教授 (70292951)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 化学プローブ / 破骨細胞 / 内在性膜タンパク質 / 時空間解析 |
研究実績の概要 |
本研究では、これまで開発してきた化学プローブを用いた時空間解析技術を統合し、天然・人工リガンドとなる化合物の動作原理を可視化して示すことを目的とする。測定したい分子との反応に着目して化学プローブをデザインするという発想を基に、時間を特定して標的となる生体分子に機能性蛍光分子を導入する原理を開発する。分子認識あるいは酵素反応といった生体内で起こる反応を分光情報(蛍光特性変化等)へ変換できる化学プローブをデザイン・合成する。開発した化学プローブを応用して、分子リガンドの機能を時空間的に解明するための技術プラットフォームを確立する。本プラットフォームを基盤として、本領域における分野融合研究を推進し、新規生物活性リガンドの高次機能評価・スクリーニングを行い、「化学コミュニケーション」の統合的理解を深める。 具体的な例としては、破骨細胞の骨吸収活性をイメージングする化学プローブの開発、内在性膜タンパク質(GPCR)のリガンド結合に伴う構造変化をイメージングできる化学プローブの開発を中心に取り組む。本年度は特に破骨細胞の活性をイメージングできる化学プローブの開発を行った。破骨細胞は骨組織を溶解し、骨組織の再構築を行っており、その異常な活性は骨粗しょう症や関節リウマチの原因になることが指摘されている。破骨細胞は酸を放出することで骨を溶解するため、低pHで光る蛍光色素によってその活性をイメージングすることが可能であると考えた。さらに、分子リガンドの吸収・蛍光波長と重なりにくい赤色蛍光で検出するため、新たなpH応答性色素をデザイン、合成し、その光学特性を評価した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
低pHで応答する赤色蛍光色素の候補として、π拡張縮環型BODIPY色素に着目し、pH応答性を付与した分子の設計を行った。具体的にはπ拡張縮環型BODIPY色素においては光誘起電子移動の機構で、低pHに応答して蛍光強度が上昇する色素を設計した。分子軌道計算に基づくpKa値に従い、これらの色素を合成し、pH応答性の評価を行ったところ、いずれの色素も破骨細胞が作るpH領域(pH = 4.5~6.0)で蛍光上昇を示した。この色素に骨組織へ高い結合能を示すビスホスフォネート基を導入することで、in vivoで骨組織に送達可能な蛍光プローブを開発した。しかし、マウス体内での蛍光は観察されず、色素の脂溶性に問題があることが考えられた。 そこで、新たな赤色蛍光色素としてローダミンのスピロラクタム体に着目した。ラクタム部分のスピロ環化を利用し低pHで蛍光性の開環体となる色素群を設計、合成した。合成した色素群の蛍光特性を評価したところ、適切なpH応答性は見られたが、応答速度に顕著な差が見られた。特に、ラクタム部分に電子求引性のトリフルオロエチル基を導入したものが素早いpH応答を示しており、酸性領域をリアルタイムで追跡する上で適した設計であることが分かった。この色素にビスホスフォネート基を導入し、プローブを合成した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度開発したpH応答性ローダミンスピロラクタム型の赤色蛍光色素を基にした蛍光プローブを用いて、マウス体内において破骨細胞が作る酸性領域を時空間を制御して検出するイメージング系を構築する。応用例として、破骨細胞のプロトンポンプの動態と酸性領域との関連をイメージングによって追跡する。プロトンポンプは酸の放出に関与していることが知られているが、その動態と機能は生体内で観察されておらず、理解されていない。そこで、プロトンポンプをGFPで標識したマウスを用いて、開発した赤色蛍光プローブとのマルチカラーイメージングを行い、その動態を解析し、プロトンポンプ阻害剤等の評価系を構築する。
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