本研究課題では、小胞体膜貫通型転写因子OASISが核膜損傷部に集積する分子機構とその生理機能を明らかにするとともに、OASISが集積する核-小胞体連携ゾー ンの形成機構ならびに生体における役割を解明する。今年度は以下のことを明らかにした。1)核膜損傷部の応答機構(核-小胞体連携ゾーン形成機序);各種の核膜傷害モデル(コンプレッション、狭小部通過、レーザー照射、ネルフィナビルによる核膜傷害モデルなど)を使い核膜損傷部にOASISとともに集積する分子をTurboID法でスクリーニングし複数の候補を見出した。そのうちのひとつであるSIL1は小胞体分子シャペロンBiPのATPase活性を制御する役割を有しており、破綻した核膜局所でタンパク質折り畳み制御が行われている可能性を見出した。損傷部への集積もOASISと同じ挙動をとり協調して核膜修復に働くことが示唆された。2)がんにおける核膜ストレス応答とOASISの役割;がん細胞の悪性度の指標のひとつに核形態異常 (核膜構造の異常)が挙げられる。興味深いことにいくつかのがん種で OASIS 遺伝子のプロモーター領域がDNAメチル化を受け、それに伴ってOASISの発現が低下していることがわった。それら細胞の核膜ストレスに対する応答をみてみると、メカニカルストレスによって誘導される核膜破綻の修復能が低下していた。人為的に OASIS 遺伝子の脱メチル化を誘導し発現を高めると (エピゲノム編集)、ESCRTなどの修復因子による核膜修復が促進されがん細胞の核形態変化が改善できた。またそれに伴って細胞増殖スピードも低下した。免疫不全マウスにがん細胞を移植し、その後エピゲノム編集操作を施すとがん細胞の核膜形態が回復するとともに細胞増殖が停止してがんの成長が大幅に抑制できることが確認できた。
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