研究領域 | 細胞機能を司るオルガネラ・ゾーンの解読 |
研究課題/領域番号 |
17H06417
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
花田 賢太郎 国立感染症研究所, 細胞化学部, 部長 (30192701)
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研究分担者 |
加藤 薫 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (80356782)
下嶋 美恵 東京工業大学, 生命理工学院, 准教授 (90401562)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 小胞体 / ゴルジ体 / 葉緑体 / 脂質輸送 / オルガネラ膜接触部位 / 超解像イメージング |
研究実績の概要 |
オルガネラ間の脂質輸送は異なるオルガネラ同士の接触する特殊なゾーン(オルガネラ連携ゾーン)において脂質輸送タンパク質群が実行していることが生物種を問わず多様な脂質種で広く明らかになってきた。しかし、その詳細な分子機序や実際に輸送の起こっているゾーンの可視化、この連携ゾーンが生物個体の生存戦略に果たす役割などは未解明である。新学術領域研究「細胞機能を司るオルガネラ・ゾーンの解読」の研究計画班の一つとして当研究班では、小胞体とゴルジ体もしくは葉緑体との間の機能連携およびその制御の分子機序を脂質輸送の観点から研究している。平成30年度の成果として、(1)欠損するとスフィンゴミエリン(SM)結合性毒素ライセニンへの耐性を付与することを指標にしたゲノムワイド探索により、CERTを含む既知のSM合成関連遺伝子群だけでなく、CERTを小胞体ーゴルジ体連携ゾーンで適切に機能させることに関わる遺伝子候補群が浮かび上がってきた。一方で、セラミド類似構造を持たないCERT阻害剤の開発にも成功した。(2)植物の小胞体―葉緑体間の脂質輸送に寄与するリン脂質分解酵素ホスファチジン酸ホスホヒドロラーゼ (PAH1, PAH2) の細胞内局在を、GFPとの融合タンパク質を発現させたPAHノックアウト変異体を用いて解析を行ったところ、PAHは葉緑体に局在していること、また、栄養十分生育条件と比べて、リンや窒素の欠乏条件ではタンパク質の安定化が起こっていることが明らかになった。(3)SIMやSTED顕微鏡により細胞内小器官を観察する条件を決めた。また、2カメラSIMを用いて2種類の分子の共局在を数nm精度で観察し細胞の弾性と構造の関係を明らかにした。また無染色で小胞体を観察する方法を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【動物細胞における小胞体⇔ゴルジ体連携ゾーンに関する研究】CERTは、哺乳動物細胞において、小胞体からゴルジ体へとセラミドを輸送するタンパク質である。SM結合性毒素ライセニンへの耐性を付与することを指標にしたゲノムワイド探索により、CERTを小胞体ーゴルジ体連携ゾーンで適切に機能させることに関わる遺伝子候補群を見出した。また、CERTの阻害剤としてセラミド類似構造を持つHPA-12を花田らは以前開発していたが、この度、セラミド類似構造をたない新規阻害剤E16Aの開発にも成功した。我々が開発した構造的に全く異なる阻害剤ペアは、CERTの生物学的役割をより正確に知ることのできる薬剤ツールになると期待される。小胞体は細胞質との屈折率差が小さいことが原因で見えない。そこで、僅かな屈折率差を画像化できる位相差対物レンズを試作したところ、無染色の小胞体が観察可能になった。これは現時点では、世界で唯一の観察方法である。【植物細胞における小胞体⇔葉緑体連携ゾーンに関する研究】植物において、PAHは小胞体から葉緑体への脂質供給に寄与するリン脂質分解酵素であるが、その細胞内局在については不明な点が多かった。本年度、通常の共焦点顕微鏡よりも高精度で観察が可能な共焦点顕微鏡を用いてシロイヌナズナにおける局在解析を進めたところ、PAH1およびPAH2は葉緑体に局在することが明らかになった。また、抗体を用いた生化学的解析も行った結果、PAH1, PAH2の両タンパク質ともに、栄養十分生育条件下では存在量が少なく、リンや窒素欠乏条件下では存在量が多いことがわかった。また、通常生育時、栄養欠乏時ともに、PAH2よりもPAH1の方がより不安定であることが明らかになった。現在、PAHの葉緑体局在決定因子ならびにPAHの不安定化機構について解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
(1)脂質輸送に関連する小胞体―ゴルジ体/葉緑体連携ゾーン形成機序 ①CERTが小胞体―ゴルジ体膜接触部位で機能するために必要な因子群候補を平成30年度までに見出したので、平成31年度はこれら候補群の解析に進む。一方で、CERT PHドメイン下流の多重リン酸化がCERT機能を阻害する機序においては、当該多重リン酸化部位と分子内相互作用する領域候補を見出したので、この発見を基礎にさらに解析を進める。②平成30年度に、シロイヌナズナのPAH-GFP融合タンパク質発現株を用いた顕微鏡解析により、PAHの細胞内局在は葉緑体であることが明らかになった。平成31年度は、PAHの葉緑体局在について生化学的解析により確認する。また、通常生育時のPAHタンパク質不安定化の要因を明らかにするために、各種タンパク質分解阻害剤を用いて解析を進める。 (2) 小胞体⇔ゴルジ体/葉緑体連携ゾーンの超解像イメ-ジング解析 HeLa細胞内のCERTの局在をSTED解析する。シロイヌナズナでは、生化学的解析結果を反映したイメージング解析を目指す。また、無染色の小胞体を直接観察できる位相差法を考案したので、この方法で、小胞体ゴルジ間の輸送の解析を行うことを目指す。 (3) 小胞体―ゴルジ体/葉緑体連携ゾーンが生存戦略に果たす役割 ①哺乳動物の小胞体―ゴルジ体連携ゾーンの形成に関わると示唆されているいくつかの遺伝子を欠損させたHeLa細胞変異株を作製し、細胞生育やCERT機能への影響を解析する。②PAHと同様にリン欠乏時の小胞体―葉緑体間の脂質輸送に関わると考えられているnon-specific phospholipase C5過剰発現体の作出を完了し、ストレスに応答した脂質組成変化や脂質ターンオーバーへの影響を調べることで脂質輸送への寄与を明らかにする。
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備考 |
アウトリーチ活動 ①一般公開サイエンス・カフェ「細胞」 2018.9.29国立感染症研究所戸山庁舎(花田ら)②Google Arts & Cultureの『Light Body ~私たちの体のナゾを探る“光”~』(NHK educational 製作)に画像提供と出演し、制作に協力、2019年3月7日公開 ③第27回日本バイオイメージング学会学術集会(2018.9):大会長:加藤 薫(産総研)
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