研究領域 | 細胞機能を司るオルガネラ・ゾーンの解読 |
研究課題/領域番号 |
17H06420
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中野 明彦 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (90142140)
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研究分担者 |
黒川 量雄 国立研究開発法人理化学研究所, 光量子工学研究領域, 専任研究員 (40333504)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 超解像ライブイメージング / GPIアンカー選別ゾーン |
研究実績の概要 |
本実施課題では、小胞体とゴルジ体の積荷蛋白質の選別輸送ゾーン、とくに出芽酵母をモデルとしたGPIアンカー蛋白質の輸送ゾーンの解明を目指し解析を行っている。出芽酵母では、GPIアンカー型と非GPIアンカー型の積荷蛋白質が、異なるメカニズムで小胞体からゴルジ体へと輸送される可能性がある。そこで、本年度の研究では、これら両種の積荷蛋白質が小胞体上の異なるER exit site (ERES)に集積することの証明を目指し、SCLIMを用いた3次元ライブイメージングを行った。温度感受性の損傷をもつ酵母変異株sec31-1株は、非制限温度下で小胞体からゴルジ体へのCOPII小胞の輸送が阻害される。この株を用いて、COPII被覆蛋白質、Sec13-iRFPまたはSec13-mCherryを恒常的に発現し、熱ショックプロモーターまたはGal誘導性プロモーター制御下でGPIアンカー型積荷蛋白質と通常の膜貫通領域を持つ非GPIアンカー型積荷蛋白質(Gas1-mRFPとAxl2-GFPまたはCwp2-VenusとMid2-iRFP)を発現させて、非許容温度で小胞体からゴルジ体への積荷蛋白質の輸送を阻害して観察した。GPIアンカー蛋白質Gas1-mRFP とCwp2-venusは多数のERESのうちの一部のERESの近傍に強く集積した。一方で、Axl2-GFPとMid2-iRFPは、小胞体内腔に広く分布していた。GPIアンカー型積荷蛋白質が集積する領域には非GPIアンカー型の積荷蛋白質はほとんど局在しないことから、排他的な局在制御の存在が示唆された。さらにこの条件下では、積荷蛋白質のERES内への集積も見られなかった。以上の結果より、出芽酵母におけるGPIアンカー型と非GPIアンカー型の積荷蛋白質が小胞体内で異なるゾーンへと運ばれること、すなわち小胞体選別輸送ゾーンの存在が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究実施において、2種類のGPIアンカー型積荷蛋白質、2種類の非GPIアンカー型積荷蛋白質、2種類の積荷蛋白質発現誘導方法の組み合わせを用い、SCLIMによる3次元ライブセルイメージングによって出芽酵母のGPIアンカー型と非GPIアンカー型積荷蛋白質が異なる小胞体領域に集積、分布することを明らかにし、小胞体における選別輸送ゾーンの存在を示すことができた。さらにCOPII小胞形成が温度感受的に阻害される株では、GPIアンカー型および通常の膜貫通領域をもつ非GPIアンカー型の積荷蛋白質とERESマーカーとの共局在があまり見られないことから、小胞体で合成された積荷蛋白質が小胞体選別輸送ゾーンへ移動した後に、ERESのCOPII小胞へ取り込まれる制御機構があることも示唆された。今後、使用するGPIアンカー型と非GPIアンカー型の積荷蛋白質とゴルジ体シス槽のマーカー蛋白質、ならびにトランスゴルジネットワーク(TGN)のマーカー蛋白質それぞれを異なる蛍光蛋白質で標識した出芽酵母株も本年度作成が完了し、また、GPIアンカー形成に関わる酵素群の小胞体内局在を3次元で可視化する系の構築も進んでいる。以上のことから、本年度の研究は順調に進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究で、出芽酵母のGPIアンカー型と非GPIアンカー型積荷蛋白質が異なる小胞体領域に集積、分布することが明らかになった。GPIアンカー型積荷蛋白質は小胞体内で複数の酵素による修飾を受け成熟した蛋白質となる。これら酵素群による修飾と小胞体選別輸送ゾーンへの集積との関連を出芽酵母の修飾酵素欠損株を用いて詳細に解析する。またこれまでに、通常の膜貫通領域を持つ非GPIアンカー型の積荷蛋白質がERESに一旦濃縮し、そこにゴルジ体のcis槽が接近、接触して積荷を受け取り、再び離れる挙動(hug and kiss)を繰り返すことで積荷蛋白質がゴルジ体へと輸送されることを明らかにしてきた。GPIアンカー蛋白質と非GPIアンカー蛋白質が異なる小胞体のゾーンからどのようにERESに集積し、その後、それらのERESにゴルジ体のcis槽がどのように接近、接触して積荷を受け取るのか、異なるcis槽が積荷蛋白質選択的にhug and kissするのかをSCLIMを用いたライブイメージングによって詳細に比較、解析する。また我々は、積荷を受け取ったcis槽は積荷蛋白質を保持しながらTGNへと成熟することを明らかにしている。積荷蛋白質の種類によって異なる選別機構がはたらき、TGNごとに異なる積荷蛋白質を保持するようになるかどうかも可視化により明らかにすることで、並行した複数の経路の存在を検証する。これらの研究もスペインセビリア大学のManuel Muniz教授の協力を得て進めていく。
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