研究領域 | 性スペクトラム - 連続する表現型としての雌雄 |
研究課題/領域番号 |
17H06424
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
立花 誠 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (80303915)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 性スペクトラム / 生殖腺 / 性決定 / エピゲノム |
研究実績の概要 |
2019年度は、DNAメチル化やDNAの脱メチル化と性決定の関係を追及していくことが目標であった。これまでに、性決定の時期の生殖腺体細胞ではDNAの脱メチル化の中間体である5-ハイドロキシメチル化シトシンが有意に高いことを明らかにしていた。5-ハイドロキシメチル化シトシンはTet1、Tet2、Tet3分子の酵素活性によって生産される。CRISPR/Cas9によって、これら3つのTetファミリー分子の欠損体の作製を試み、XY個体のメス化が誘導されるのかについて検討を行ったところ、以下の研究成果を得た。 1.Tet1を欠損したXYマウスは正常にオス化した。Jmjd1a, Tet1二重欠損マウスにおいて、Tet1欠損がJmjd1a欠損によるXY性転換の表現型を亢進することはなかった。 2.Tet2を欠損したXYマウスは正常にオス化した。しかし一方で、Jmjd1a, Tet2二重欠損マウスの表現型を観察した結果、Tet2欠損がJmjd1a欠損によるXY性転換の表現型を亢進することが明らかになった。 3.Tet3を欠損したXYマウスは正常にオス化した。Jmjd1a, Tet3二重欠損マウスにおいて、Tet1欠損がJmjd1a欠損によるXY性転換の表現型を亢進することはなかった。 以上の結果から、Tet3はXYマウスのオス化に正に働く分子であることが分かった。しかし単独欠損ではXY個体のメス化は観察されなかったことから、H3K9の脱メチル化に比べると、オス化への寄与は低いことが明らかになった。Tet2の性分化過程における作用点を調べたところ、Sryの発現が有意に低下していたことから、Tet2はSryの発現活性化に寄与していることが明らかになった。DNAのハイドロキシメチル化シトシンの量を調べたところ、性決定期のXY生殖腺体細胞のSry遺伝子座におけるハイドロキシメチル化シトシンが、Tet2欠損によってほぼ完全に消失していた。この研究成果をScientific Reports 2019に報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
性決定遺伝子の発現制御機構に、DNAの脱メチル化が関与していることは、これまでいくつかの研究で明らかになっていた。しかし一方、どのようなメカニズムによる脱メチル化機構なのかについては、長らく不明のままだった。2019年度の私たちの研究により、TET (Ten-eleven translocation)2がSryの脱メチル化を担っていることが明らかになった。Jmjd1aによるH3K9脱メチル化に加え、Tet2によるDNAメチル化がSryの発現に関与していることを見出した意義は大きい。ヒトのdisorders of sex development (DSD)の疾患の半分が原因不明である。私たちの結果は、H3K9のメチル化の異常に加え、DNAのメチル化の異常もDSDの発症原因になりうることを示している。これまでに私たちは、Sryの発現に関与するエピゲノム因子として、Jmjd1aによるH3K9脱メチル化、GLP/G9aによるH3K9メチル化、Tet2によるDNAの脱メチル化を同定してきた。領域内の共同研究を加速させることによって、これらのエピゲノム修飾機構がヒトのSRYの発現制御に関わっているのかどうかについて今後検証していきたい。以上の研究進捗は当初の計画通りといってよい。よって「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、Sryの発現の制御するためにH3K9の脱メチル化やDNAの脱メチル化反応が、環境によってどのように制御されているのかについて、明らかにしていきたい。H3K9の脱メチル化には、二価鉄が必須である。同様に、TetによるDNA脱メチル化にも二価鉄が必須である。妊娠期の母親が貧血になった場合に、胎仔の生殖腺体細胞におけるSryの発現がどのように変化するのかをマウスモデルて調べる。また、ヒストンのアセチル化にはアセチルCoAが必須であり、ヒストンのメチル化やDNAのメチル化にはS-アデノシルメチオニンが必須である。これらの代謝産物が生殖腺体細胞の遺伝子発現、なかでも性決定遺伝子であるSryの発現にどのように関わっているのかを検討していきたい。
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