計画研究
1) 組換え抑制を招く性スペクトラム関連遺伝子の同定(i)性決定遺伝子座周辺の参照ゲノム配列の完成:これまでに1魚種(ブリ)のZ染色体について、性決定遺伝子周辺の参照ゲノム配列を得ている。しかし、ペアとなるW染色体、および他の2魚種の性染色体については、その参照配列は得られていなかった。そこで2017年度は、長鎖ターゲットエンリッチメント法による参照配列構築を試みた。その結果、1魚種のZおよびW染色体の参照ゲノム配列を得ることができた。(ii)多個体のハプロタイプフェージング:上記で開発した長鎖エンリッチメント法は、濃縮度に領域依存的なバラツキがあるため、少数個体の高被覆度解析には適しているが、多個体の低被覆度解析には適していないことが判明した。これを改善するため、通常のPCRをエマルジョン法に置換した後、得られた濃縮産物を長鎖シーケンシングに供した。(iii)性決定遺伝子:性スペクトラム関連遺伝子が組換え抑制を招くためには、それら遺伝子と性決定遺伝子の距離がある程度近い必要があると予想されている。この距離を知るための前提として、上記3魚種の性決定遺伝子のゲノム上の位置を同定した。3魚種の性はすべてHsd17b1遺伝子第3エクソン上の一塩基多型により決定されていることが示された。2) 組換え抑制をつくりだすエピゲノム構造変化の解明(i) 組換え抑制とヘテロクロマチン化の関連をさぐる:解析材料を得るため、2017年度は秋から冬にかけて2歳ブリの卵巣から卵細胞を分離・濃縮することを試みた。顕微鏡下の観察の結果、よりはやい段階の卵細胞のほうが後の解析に適していることがわかった。(ii) 組性決定遺伝子周辺の組換え抑制とメチル化状態の関連を明らかにするため、2017年度はブリ卵巣より分離・濃縮した卵細胞からDNAを抽出し、全ゲノムバイサルファイトシーケンシングをおこなった。
2: おおむね順調に進展している
1) 組換え抑制を招く性スペクトラム関連遺伝子の同定については、当初の計画以上に進展している。一方で、2) 組換え抑制をつくりだすエピゲノム構造変化の解明についは、若干、遅れている部分もある。
1) 組換え抑制を招く性スペクトラム関連遺伝子の同定(i)性決定遺伝子座周辺の参照ゲノム配列の完成:2017年度に長鎖エンリッチメント法の有効性が確認できたので、2018年度はまず、組換え抑制が強い1魚種(ブリ)のWW型ダイプロイド個体を染色体操作により作出し、次にこれをエンリッチメント法に供してW染色体の参照配列を作製する。(ii)多個体のハプロタイプフェージング:2017年度に通常のPCRをエマルジョン法に置換したサンプルを長鎖シーケンシングに供した。2018年度はこのデータのアセンブルをおこない、エマルジョンPCRの有効性を検証する。別途、W染色体の個体差を効率的に検出するため、雌性発生法によりW型ハプロイドを得て、これを上記の改変版長鎖エンリッチメント法に供する。2) 組換え抑制をつくりだすエピゲノム構造変化の解明(i) 組換え抑制とヘテロクロマチン化の関連をさぐる:2017年度にサンプリングした卵細胞は、その発達段階が若干すすみすぎていた。2018年度は、全雌ブリを作出し、これを経時的に観察して最適なサンプリング時期を決定する。別途、卵細胞の分離・濃縮法の最適化もおこなう。(ii)組換え抑制とDNAメチル化の関連をさぐる:2017年度に全ゲノムバイサルファイトシーケンシングをおこなったが、野生型ブリの多型データがないため、メチル化サイトを判定することができなかった。そこで、まず今年度は野生型ブリの多型データを取得し、つぎに昨年のデータとあわせることでメチル化サイトの検出をおこなう。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
PLOS ONE
巻: 13 ページ: e0190635
10.1371/journal.pone.0190635.
http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/sexspectrum/index.html