研究領域 | 性スペクトラム - 連続する表現型としての雌雄 |
研究課題/領域番号 |
17H06425
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
菊池 潔 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (20292790)
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研究分担者 |
小山 喬 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 准教授 (40749701)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 性決定 / 性染色体 / 性決定遺伝子 / 性スペクトラム / 組換え / トランスポゾン / 性特異的な優性効果 |
研究実績の概要 |
多くの生物種の性染色体は、組換え抑制が原因で異形化している。この組換え抑制のトリガー(進化要因)は、性決定遺伝子近傍に存在する「オス化やメス化の程度を変える遺伝子」(性スペクトラム上の位置定位に関わる遺伝子)であると推測されてきた。しかし、モデル生物の性染色体は異形化が進みすぎているため、この仮説の検証は不可能である。本研究は、異形化前後の染色体をもつと予想される魚類の近縁種群を材料として、性染色体進化の初期過程を解明することを目的とした。 ブリ類3種の詳細なゲノム配列解析を行い、これらが、組換え抑制前後の性染色体をもつという確証を得た。すなわち、3種中のなかで1種では組換え抑制はまったく観察されず、1種では600kbの組換え抑制領域が観察され、1種では組換え抑制の兆候がわずかに認められた。これまで、性染色体中の逆位が組換え抑制の主要因とされてきたが、これら種には逆位が認められず、新規の組換え抑制機構が存在する可能性が示された。さらに、上記600kbの組換え抑制領域の中に、メス特異的な優性効果をもつ可能性がある変異を見いだした。遺伝子発現の近縁種間比較からも、組換え抑制領域の中にメス特異的な優性効果をもつ領域があることが示唆されており、この変異が組換え抑制を招いた変異の候補と考えている。また、新型コロナ感染症の影響でブリ類の生細胞取得が困難であっため、外部機関に材料を依存しなくてすむフグ類の性染色体の解析をすすめた。その結果、これらの種で新たな組換え抑制が生じている性染色体領域には、雄特異的な遺伝子が集積している可能性が示された。この「挿入による組換えの抑制」自体に新規性はないが、ゲノム上の異なる領域に「挿入による組換え抑制領域」が多発する機構の解明は、変温動物で性染色体が短期間に入れ替わってしまう現象の解明につながる可能性があると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
新型コロナ感染症対策のために養殖場の協力が得られず、研究用の試料(生殖腺中にある生殖細胞)を取得することができなかっため。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナ感染症が収束しない場合、ブリ類を材料とした研究は、研究用試料の入手が困難となるので、その進捗が遅れることが予想される。そこで、外部機関に頼らなくても研究用試料が入手可能なフグ類を材料とした研究を代替的にすすめる。 一方で、新型コロナ感染症が収束した場合、性決定遺伝子座の組換え抑制とヘテロクロマチン化の関連解明を目指す。すなわち、組換え抑制がある種のパキテンキ期卵母細胞を高度に濃縮する技術を完成させ、これのエピゲノム状態を解析する。また、研究室内に整えた一細胞RNA-seq系を基盤として、一細胞レベルのエピゲノム解析にも挑戦する。また、組換え抑制領域の拡大に伴う遺伝子発現の変化を明らかにするため、組換え抑制の有無に差のあるブリ類2種を材料として、遺伝子発現の種間差を多数の組織について解析する。なお、本解析にも上述した一細胞RNA-seq系の一部を活用する。
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