研究領域 | 性スペクトラム - 連続する表現型としての雌雄 |
研究課題/領域番号 |
17H06426
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
長尾 恒治 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (60426575)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 性スペクトラム / エピジェネティクス / X染色体不活性化 |
研究実績の概要 |
哺乳類では、X染色体の数がオスでは1本、メスでは2本となっており、X染色体連鎖遺伝子の遺伝子量が雌雄の間で異なっている。哺乳類には性染色体の遺伝子量を保証するため、X染色体不活性化という巧妙な遺伝子量補償機構が存在し、2本のX染色体のうち一方は、不活性化X染色体という巨大なヘテロクロマチン構造(バー小体と呼ばれる)として体細胞では核内に保持される。我々は、不活性化X染色体の凝縮構造が、不活性化X染色体構築のマスターレギュレーターである非コードRNA XISTの下流で働くSMCHD1-HBiX1複合体によって作られることを、これまで報告してきた。またSMCHD1-HBiX1は、常染色体上にもドメインを形成して局在する。本研究課題では、SMCHD1-HBiX1の機能を明らかにしていきながら、不活性化X染色体自身が常染色体上の遺伝子発現に影響を与える様式を明らかにし、性スペクトラム上の位置を定位させる遺伝的基盤を明らかにする。そこで、SMCHD1-HBiX1を欠損した場合、どのような遺伝子発現異常が見られるか、ヒストン修飾などのエピジェネティクス状態が、どのように変化するかを解析した。Smchd野生型、及びSmchd1ホモ変異由来の雌のマウス繊維芽細胞を比較したところ、Smchd1欠損下ではX染色体連鎖遺伝子のうち約半数がX染色体不活性化以上を示し、さらにこれらの遺伝子領域内では抑制型のヒストン修飾H3K27me3が失われていた。興味深いことに、Smchd1欠損によって影響を受ける遺伝子は通常のX染色体不活性化の過程の初期には、あまりH3K27me3修飾を受けない遺伝子であった。このことから、Smchd1は遺伝子発現抑制を維持するために、抑制型のヒストン修飾の導入を促進する働きがあると考えられた。この点について論文を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Smchd1の機能が不活性化X染色体によって影響されるかどうかを、遺伝学的に調べることができる系を作ることができた。またChIP-seq法の実験的、情報処理的なプロトコールを改良し、これまでの10倍の解像度でChIP-seq解析することができるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
確立できた遺伝学的に不活性化X染色体の有無とSmchd1機能との関連を調べることのできる系を使い、ChIP-seq, RNA-seqによるデータを蓄積しながら、不活性化X染色体がSmchd1-Hbix1挙動にどのような影響を与えるのか、それによって遺伝子発現がどのように制御されているのかを見いだしていく。
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