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2018 年度 実績報告書

性ステロイドが規定する性スペクトラム

計画研究

研究領域性スペクトラム - 連続する表現型としての雌雄
研究課題/領域番号 17H06427
研究機関九州大学

研究代表者

諸橋 憲一郎  九州大学, 医学研究院, 主幹教授 (30183114)

研究分担者 馬場 崇  九州大学, 医学研究院, 准教授 (40435524)
今井 祐記  愛媛大学, プロテオサイエンスセンター, 教授 (10423873)
研究期間 (年度) 2017-06-30 – 2022-03-31
キーワード性差 / 性ステロイド / ライディッヒ細胞 / 骨格筋 / Ad4BP
研究実績の概要

雌雄を連続するスペクトラムとして捉え、性スペクトラム上での定位(オス化・メス化のレベル)と移動(オス化・メス化のレベルの変化)を制御するメカニズムを解明することが、性の本来の姿を理解するために必須である。本研究では、内分泌要因(性ステロイド)と遺伝要因(性染色体上の遺伝子)による性スペクトラム制御の分子基盤を明らかにする。実験では、性ステロイドを産生する精巣ライディッヒ細胞と性ステロイドの影響を受ける骨格筋細胞を取り上げ、特に核内受容体型転写因子Ad4BPと性染色体上のヒストン修飾酵素遺伝子によって制御される代謝活性の強弱が、細胞の性スペクトラムを制御するとの観点から、以下の成果が得られた。
1) 精巣ライディッヒ細胞における性スペクトラムの制御機構
精巣のライディッヒ細胞は男性ホルモン産生を担う。この細胞は胎仔精巣で出現し、胎仔のオス化には不可欠であるが、その分化メカニズムは不明である。胎仔精巣の間質にはライディッヒ前駆細胞を含む細胞集団が存在する。1細胞シークエンス法にて前駆細胞と思われる細胞集団の存在を確認するとともに、前駆細胞に発現する数個の遺伝子を同定した。Tmsb10はその遺伝子の一つで、細胞骨格の形成に寄与するアクチン重合を抑制する分子としての解析が進んでいる。現在本遺伝子とヘッジホックシグナルとによる胎仔ライディッヒ細胞の分化機構を解析している。
2) 骨格筋細胞における性スペクトラムの制御機構
骨格筋は雌雄で大きさと強さが異なる。性ホルモンと性染色体が、この性差を制御する要因と考えられる。本年度はこれら二つの要因によって影響を受ける骨格筋に着目し、筋繊維を区別しながら、性腺摘出マウスとその後の性ホルモン処理マウスの筋繊維を調製し、トランスクリプトームを取得した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

1) 精巣ライディッヒ細胞における性スペクトラムの制御機構
胎仔型ライディッヒ前駆細胞を含む細胞集団の約400細胞より1細胞トランスクリプトームを取得し、前駆細胞集団の特定、ならびにその細胞集団に発現する遺伝子を得ることができた。Tmsb10はその遺伝子の一つで、細胞骨格の形成に寄与するアクチン重合を抑制する分子として解析されてきた。この遺伝子をノックダウンすると胎仔型ライディッヒ細胞への分化が完全に抑制された。一方、DHHは胎仔型ライディッヒ細胞の分化に必要で、精巣再構築系でヘッジホックシグナルを活性化すると胎仔型ライディッヒ細胞が短時間に分化し、その数も増加する。そこで、ヘッジホックシグナル存在下にTmsb10をノックダウンしたところ、胎仔型ライディッヒ細胞への分化は完全に抑制された。
2) 骨格筋細胞における性スペクトラムの制御機構
骨格筋の大きさや強さなどの性差は性ホルモンと性染色体が制御する。種々の骨格筋にてこの二つの要因が骨格筋の遺伝子発現に与える影響を調べた。雌雄の性腺摘出マウス、その後に性ホルモン処理を行なったマウスの骨格筋を対象とした。骨格筋には性質の異なる筋繊維(遅筋と速筋)が混在するため、これらの筋繊維を区別しながら、筋繊維ごとのライブラリーを作成した。現在、トランスクリプトームの取得に向けシークエンスを行なっている。遺伝要因の寄与を問うに当たり、性染色体にコードされる4種のヒストン脱メチル化遺伝子(SMCX、SMCY、UTX、UTY)に着目している。これらの遺伝子のノックアウトマウス、またこれらの脱メチル化酵素の標的サイトをChIP-seqにて同定するため、FLAG-tagを挿入したマウスを作出している(UTY以外は作出済み)。同時に少数細胞で行うことができる新たなChIP-seq法の予備実験を進めている。

今後の研究の推進方策

1) 精巣ライディッヒ細胞における性スペクトラムの制御機構
ヘッジホックシグナルが胎仔型ライディッヒ細胞の分化を誘導し、このシグナルの下流にTmsb10が関与するステップが存在すると考えられる。一般に、ヘッジホックシグナルの下流では転写因子Gliが活性化され、標的遺伝子の転写を活性化する。加えて、この経路とは別にRasの活性化を通じ、MAPKカスケードの活性化を引き起こす経路も存在する。興味深いことに、アクチン重合の制御を行うと考えられてきたTmsb10にはRas-Rafの結合を阻害することで、MAPKカスケードを抑制するとの結果も報告されている。これらの論文を参考に二つのヘッジホックシグナル経路に着目しつつ、胎仔型ライディッヒ細胞の分化メカニズムの解明に向けた研究を継続している。前駆体細胞からライディッヒ細胞に分化する際にはAd4BPの発現が大きく増加する。ヘッジホックシグナルはエネルギー代謝を活性化するとの報告もあり、ヘッジホックシグナルの最終標的がAd4BPであるとの推測も可能である。

2) 骨格筋細胞における性スペクトラムの制御機構
性腺摘出マウスの雌雄の骨格筋と性ホルモン処理マウスの骨格筋のトランスクリプトームを比較することで、性ホルモンと性染色体の遺伝子発現レベルでの役割分担が明らかになる。発現変動が見られる遺伝子の制御には男性ホルモン受容体、女性ホルモン受容体、ならびにSMCX、SMCY、UTX、UTYなどのヒストン脱メチル化酵素が関与する可能性を見据え、これらの因子がどのような遺伝子座に結合するかをChIP-seqによって明らかにする。男性ホルモン受容体、女性ホルモン受容体については研究分担者が、ヒストン脱メチル化酵素については我々が行う。後者については、これらの遺伝子ノックアウトマウスとこれらの因子を認識できるようFLAG-tagを挿入したマウスを作成している。

  • 研究成果

    (14件)

すべて 2019 2018 その他

すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 5件、 招待講演 3件) 備考 (2件)

  • [国際共同研究] KIST(韓国)

    • 国名
      韓国
    • 外国機関名
      KIST
  • [国際共同研究] Academia Cinica(中華民国)

    • 国名
      その他の国・地域
    • 外国機関名
      Academia Cinica
  • [雑誌論文] Mouse polycomb group gene Cbx2 promotes osteoblastic but suppresses adipogenic differentiation in postnatal long bones2019

    • 著者名/発表者名
      Katoh-Fukui Yuko、Baba Takashi、Sato Tetsuya、Otake Hiroyuki、Nagakui-Noguchi Yuko、Shindo Miyuki、Suyama Mikita、Ohkawa Yasuyuki、Tsumura Hideki、Morohashi Ken-ichirou、Fukami Maki
    • 雑誌名

      Bone

      巻: 120 ページ: 219~231

    • DOI

      doi: 10.1016/j.bone.2018.10.021

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Three population of adult Leydig cells in mouse testes revealed by a novel mouse HSD3BI-specific rat monoclonal antibody2019

    • 著者名/発表者名
      Chikako Yokoyama, Yuta Chigi, Takashi Baba, Atsushi Ohshitanai, Yumi Harada, Fumiya Tahahashi, Ken-ichirou Morohashi
    • 雑誌名

      BBRC

      巻: 511 ページ: 916-920

    • DOI

      https://doi.org/10.1016/j.bbrc.2019.02.100

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Ad4BP/SF-1 regulates cholesterol synthesis to boost the production of steroids.2018

    • 著者名/発表者名
      Takashi Baba, Hiroyuki Otake, Miki Inoue, Tetsuya Sato, Yasuhiro Ishihara, Ju-Yeon Moon, Megumi Tsuchiya, Kanako Miyabayashi, Hidesato Ogawa, Yuichi Shima, Lixiang Wang, Ryuichiro Sato, Takeshi Yamazaki, Mikita Suyama, Masatoshi Nomura, Man-Ho Choi, Yasuyuki Ohkawa, Ken-ichirou Morohashi
    • 雑誌名

      Communications Biology

      巻: 1 ページ: 18

    • DOI

      10.1038/s42003-018-0020-z, 2018

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] PKA signalling drives zonal conversion within adult adrenocortical lineage in sexually2018

    • 著者名/発表者名
      Typhanie Dumontet, Isabelle Sahut-Barnola, Amandine Septier, Nathanaelle Montanier, Ingrid Plotton, Florence Roucher-Boulez, Veronique Ducros, Anne-Marie Lefranois-Martinez, Jean-Christophe Pointud, Mohamad Zubair, Ken-ichirou Morohashi, David Breault, Pierre Val, Antoine Martinez
    • 雑誌名

      JCI insight

      巻: 3 ページ: e98394

    • DOI

      doi:10.1172/jci.insight.98394

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] Recent progress in understanding the mechanisms of Leydig cell differentiation2018

    • 著者名/発表者名
      Miki Inoue, Takashi Baba, and Ken-ichirou Morohashi
    • 雑誌名

      Mol Cell Endocrinol

      巻: 468 ページ: 39-46

    • DOI

      http://doi.prg/10.1016/j.mce.2017.12.013

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] Ad4BP/SF-1 more than a regulator of adrenal steroids2019

    • 著者名/発表者名
      Ken Morohashi, Miki Inoue, Takashi Baba
    • 学会等名
      34th Joint Annual Conference of Biomedical Sciences
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Ad4BP/SF-1 more than a regulator of adrela steroids2018

    • 著者名/発表者名
      Ken Morhoashi
    • 学会等名
      18th International Congress of Endocrinology
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Orchestration of housekeeping and cell-specific metabolisms in steroidogenic cells by a transcription factor Ad4BP/SF-12018

    • 著者名/発表者名
      Ken Morohashi
    • 学会等名
      The 18th Japan-Italy Symposium The front line of research into gender science
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] ORCHESTRATION OF HOUSEKEEPING AND CELL-SPECIFIC METABOLISM FOR STEROID HORMONE SYNTHESIS BY A SINGLE TRANSCRIPTION FACTOR, Ad4BP/SF-12018

    • 著者名/発表者名
      Takashi Baba, Hiroyuki Otake, Miki Inone, Kanako Miyabayashi, Yuichi Shima, Tetsuya Sato, Yasuyuki Ohkawa, Mikita Suyama, Ken-ichirou Morohashi
    • 学会等名
      8th International Symposium on the Biology of Vertebrate Sex Determination
    • 国際学会
  • [学会発表] Ad4BP/SF-1 regulates differentiation and metabolic activation in fetal Leydig cells2018

    • 著者名/発表者名
      Miki Inoue, Takashi Baba, Ken-ichirou Morohashi
    • 学会等名
      8th International Symposium on the Biology of Vertebrate Sex Determination
    • 国際学会
  • [備考]

    • URL

      www.med.kyushu-u.ac.jp/seisaseibutu

  • [備考]

    • URL

      park.itc.u-tokyo.ac.jp/sexspectrum

URL: 

公開日: 2019-12-27   更新日: 2022-08-18  

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