雌雄を連続するスペクトラムとして捉え、性を制御するメカニズムを解明することが、性の本来の姿を理解するために必須である。本年度は副腎皮質の性差の構築機構と副腎皮質の性差の生理的意義に関する研究を遂行した。 1) 副腎皮質の性差構築メカニズム 副腎皮質は機能と形態が異なる3つの層からなる。外側より電解質コルチコイドを産生する球状層、糖質コルチコイドを産生する束状層、男性ホルモンを産生する網状層である。そこで本研究ではマウスを用い、糖質コルチコイド産生を担う束状層を対象に研究を行った。その結果、メスの束状層ではほぼ全ての遺伝子発現がオスより平均で1.8倍ほど高く、この性差は主に男性ホルモンが誘導していることが明らかになった。中でも、エネルギー代謝関連の遺伝子発現ならびに糖質コルチコイド産生に必要な遺伝子はメスで高い発現を示した。実際にこれらの活性もメスの方が高かった。Ad4BPは副腎皮質の形成には必須の転写因子であり、副腎皮質束状層で発現する約7000の遺伝子の半分が直接の標的遺伝子であることが示された。これらの結果は男性ホルモンがAd4BPの発現抑制を介して束状層のほぼ全ての遺伝子発現を抑制することで、束状層の遺伝子発現に性差を生み出していると考えられる。 2) 副腎皮質の性差の生物学的、生理学的意義 副腎皮質速上層の性差の意義を検討した。メスで多い糖質コルチコイドに着目した。糖質コルチコイドは異化作用を通じ、骨格筋のサイズを減少させる。そこで、副腎が矮小化しているAd4BP遺伝子のヘテロ欠損マウスの骨格筋サイズを調べた。その結果、ヘテロマウスの骨格筋サイズが減少していることが明らかになった。この結果はオスで大きいという骨格筋の性差が副腎皮質の性差を介して形成されていること、また骨格筋以外の性差も同様のメカニズムを介して形成される可能性が示された。
|