本年度は、これまでの成果を発展させ、ヒトの性スペクトラムの分子基盤解明を行った。主たる成果は下記の通りである。(i) ヒト正常胎盤組織の高精度ステロイド定量を行い、胎盤が胎児の性ホルモン産生に重要な役割を果たしていることを明らかにした。胎盤は、精巣に対するアンドロゲン前駆体の供給源として機能することによって男性性分化に寄与していることが示唆された。(ii) 多嚢胞性卵巣症候群女性患者の心理学的および生化学的解析を行った。その結果患者に高頻度に認められる不安症状は、特定の性ステロイド代謝障害では説明できないが、その一部にアンドロステンジオンが関与している可能性があることを見出した。(iii) 高齢男性のゲノムのmultiplex ligation dependent probe amplification (MLPA)解析により、日本人一般集団におけるY染色体構造多型の多様性を明らかとした。また、このようなY染色体構造多型が加齢後の体細胞性Y染色体喪失のリスクを増やさないことを見出した。(iv) ゴナドトロピン欠損症患者の変異解析によって、日本人患者ではNDNF機能喪失変異の頻度が低いことを明らかとした。(v) 健常な6才小児の血中ステロイド定量によって、思春期開始数年前の段階ですでに性ホルモン濃度に明確な性差が存在することを明らかとした。さらに、ヒトの思春期開始の最初の症候が女性特異的アロマターゼ活性化である可能性を見出した。(vi) 子宮内低栄養状態としたモデルマウスを作出し、表現型解析を行った。これにより、胎内環境が出生後の雌性生殖機能に及ぼす効果を明らかとした。これは胎盤機能不全に関連するヒト性分化疾患の病態の理解につながる。
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