FeSPニューロンの活性を人為的に操作することで、性行動におけるFeSPニューロンの役割を、より直接的に証明することを目指して、FeSPニューロン特異的に人工的な膜受容体を発現させた変異体メダカを作製することを試みた。しかし、人工膜受容体のノックインが上手くいかず、現在も引き続き変異体メダカの作製を進めている。
FeSPニューロンは、周囲のニューロンと比べて極めて大型の核と細胞体をもつことが見出されたが、どのような細胞内構造ゆえに大型化しているのかは分かっていなかった。そこで、電子顕微鏡に加え、共焦点超解像イメージングによって細胞内構造を調べたところ、FeSPニューロンは、ゲノムワイドにユークロマチン化した核を有すること、細胞質中には、非常によく発達した粗面小胞体とゴルジ体、および神経ホルモンを多量に含む分泌顆粒を有することが明らかとなった。このことから、FeSPニューロンは、メス型の性行動を引き起こすために必要な遺伝子群を活発に発現しているとともに、神経ホルモンを盛んに分泌するための各種オルガネラも発達させており、それゆえに大型化していると考えられた。
オスのメダカでもエストロゲンを投与するとFeSPニューロンが出現するが、神経幹細胞から細胞増殖を経て新たに誕生するのか、あるいは、すでに存在するニューロンが分化して出現するのか。この点を明らかにするために、オスに出現させたFeSPニューロンの細胞増殖の履歴を解析した。その結果、FeSPニューロンは細胞増殖を経ずに出現することが分かった。この結果から、オスの脳内にもFeSPニューロンに相当するニューロンが不活性な状態で存在すること、そしてそのニューロンがエストロゲンに応じて活性化し、FeSPニューロンとなることが示唆された。このようなメカニズムが、魚類の性行動パターンの性スペクトラム上の迅速な移動を可能としていると考えられた。
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