昨年度の研究によって、FeSPニューロンで発現している分泌顆粒への輸送に関わる遺伝子、および、RNAポリメラーゼの修飾に関わる遺伝子が、確かに性ステロイドの制御下でFeSPニューロンで発現していることが明らかとなった。そこで今年度は、それらの遺伝子のノックアウト個体を作出し、メスの性行動の表現型解析を行うこととした。まずは分泌顆粒への輸送に関わる遺伝子のノックアウトメスの性行動を解析したが、特に変化は認められなかった。念のため、オスの性行動も解析したが、やはり変化は認められなかった。RNAポリメラーゼの修飾に関わる遺伝子については、現在、解析の準備を進めている。
昨年度までの解析によって、FeSPニューロンで発現するプロスタグランジンE2受容体の一種ptgr4bが、求愛の受け入れを制御する分子として機能している可能性が示唆されたため、ptgr4bノックアウトメスのFeSPニューロンの電気活動がどのように変化しているのかを調べた。その結果、ptgr4bノックアウトメスのFeSPニューロンは自発発火頻度が低下していることが明らかとなった。また、神経ペプチドが細胞内に蓄積していることも明らかとなった。神経ペプチドのmRNA量には変化がなかったため、自発発火頻度が低下することにより、神経ペプチドの放出が阻害されていると考えられた。一方、ptgr4bノックアウトメスのFeSPニューロンのグルタミン酸への応答には変化がなかったため、ptgr4bがグルタミン酸受容体のリン酸化を介して電気活動に影響を及ぼすという当初に想定していた可能性は否定された。また、プロスタグランジンE2やそのアンタゴニストを投与しても自発発火頻度に変化は認められなかったため、FeSPニューロンに対するプロスタグランジンE2の作用は急性的なものではないことが示唆された。
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