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2018 年度 実績報告書

性転換をもたらす生殖腺の性スペクトラム

計画研究

研究領域性スペクトラム - 連続する表現型としての雌雄
研究課題/領域番号 17H06430
研究機関名古屋大学

研究代表者

田中 実  名古屋大学, 理学研究科, 教授 (80202175)

研究分担者 山本 耕裕  大阪医科大学, 医学部, 助教 (20613558)
研究期間 (年度) 2017-06-30 – 2022-03-31
キーワード生殖細胞 / 性決定 / 性転換 / 環境 / メダカ
研究実績の概要

環境影響による性のスペクトラム位置移動を調べるために、栄養状態を変化させメダカの代謝物をLC-FTMS と CE-MS/MSによるメタボローム解析を行った。その結果、パンテトン酸が複数の方法よっても有意に変動していること、その異化酵素を阻害すると性転換が引き起こされることが確認された。この代謝経路の主要な産物は CoA である。そこで CoA が関与する代謝経路を調べたところ、一群の代謝物がオス化遺伝子の発現制御に関与するとの知見が得られつつある。実際、その代謝経路を薬理的に阻害しても性転換が認められ、関与する酵素の変異体を作製すると、オス化遺伝子の発現上昇が認められた。
一方、生殖細胞の性スペクトラムの位置移動に関与する因子の同定にも成功した。ChIP解析、トランスクリプトームの発現解析(DEG)、変異体によるエピスタティック解析から、生殖細胞の性のスイッチ遺伝子の下流には2つの因子 REC8 と FBXO47 が制御されていることが今回初めて明らかとなった。この2つ因子はまったく予期されていなかった因子である。特にREC8の減数分裂での研究は盛んに行われているが、今回の結果は減数分裂にも性差があることを示唆する結果となっている。またこの2つの因子の遺伝子発現解析から、生殖細胞の性が確立する時期が明らかになりつつある。言い換えると生殖幹細胞という性的に未分化な細胞で性のスイッチが入ってから性が確立するまでには、スペクトラム上に性の位置が移動しうる時期がある程度長く存在することを意味していた。このことは卵になるか精子になるかという配偶子形成の初期過程の見地からも非常に興味深い結果となった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

環境影響による性のスペクトラム位置移動を生じさせる物質が絞られつつある。特に代謝変動によって性のスペクトラム位置移動させる分子機構は全く分かっていない。昨年度までの結果で、関与する物質(代謝物)や代謝経路、そこを制御する遺伝子群が絞られつつあり、この未解明の分子機構が明らかにできる道筋がつきつつあると言える。
また、生殖細胞の性決定遺伝子の下流では2つの因子が制御されていることが明らかとなった。このことは生殖細胞の性のスペクトラム上の移動に関与する実行部隊が明らかになったことを意味する。
以上の2つの結果は、いずれも全く新しい、性スペクトラムの位置移動の分子機構解明に迫れる具体的方法を示したことになり、研究としては十分に進展していると考える。

今後の研究の推進方策

代謝変動によって性転換が引き起こされることが明らかになりつつあるが、これに関与する一群の代謝物は非水溶性の可能性が高く、非水溶性代謝物の解析はメタボローム分野でもチャレンジングな領域の一つである。そこで非水溶性メタボローム専門家を新たに分担者に迎え、サンプル量と代謝物の検出感度など基本的な条件を検討しつつ、薬理学的実験や候補代謝物の投与実験も併用し、栄養状態を変化させたメダカで有意に変動する代謝物の絞り込みをおこなう。また性分化時期の単離生殖腺によるメタボローム解析と、飢餓条件での遺伝子発現プロファイルを利用することで、オス化遺伝子を制御する因子の同定も試みる。
この2つの因子の作用機序を、変異体解析をより詳細に行うことで明らかにする。またこの因子はクロマチン制御を行っている可能性があるため、small RNA 産生に関わる遺伝子の変異体の表現型解析を進めるとともに、クロマチン修飾における関係性の解析も試みる。

  • 研究成果

    (21件)

すべて 2019 2018 その他

すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 5件、 招待講演 4件) 図書 (2件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)

  • [国際共同研究] College de France(フランス)

    • 国名
      フランス
    • 外国機関名
      College de France
  • [国際共同研究] University of Heidelberg(ドイツ)

    • 国名
      ドイツ
    • 外国機関名
      University of Heidelberg
  • [雑誌論文] Novel components of germline sex determination acting downstream of foxl3 in medaka2019

    • 著者名/発表者名
      Kikuchi, M., Nishimura, T., Saito, D., Shigenobu, S., Takada, R., Gutierrez-Triana, J.A., Cerdin, J.L.M., Takada, S., Wittbrodt, J., Suyama, M. and Tanaka, M.
    • 雑誌名

      Dev. Biol.

      巻: 445 ページ: 80-89

    • DOI

      10.1016/j.ydbio.2018.10.019

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] Seasonally regulation of the lncRNA LDAIR modulates self-protective behaviors during the breeding season.2019

    • 著者名/発表者名
      Nakayama T., Shimmura, T., Shinomiya, A., Okimura, K., Takehana,Y., Furukawa, Y., Shimo, T., Senga, T., Nakatsukasa, M., Nishimura, T., Tanaka, M., Okubo, K., Kamei, Y., Naruse, K. and Yoshimura, T.
    • 雑誌名

      Nature Eco. Evol.

      巻: 3 ページ: 845-852

    • DOI

      10.1038/s41559-019-0866-6

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Regulation of germline cell sex identity in medaka2019

    • 著者名/発表者名
      Tanaka, M.
    • 雑誌名

      Curr. Top. Dev. Biol.

      巻: 134 ページ: 151-165

    • DOI

      10.1016/bs.ctdb.2019.01.010

    • 査読あり
  • [学会発表] How do germ cells determine their sexual fate?2018

    • 著者名/発表者名
      TANAKA M.
    • 学会等名
      The 9th International Symposium on Fish Endocrinology (9ISFE2018)
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Germ Cells - more than gametogenesis2018

    • 著者名/発表者名
      TANAKA M.
    • 学会等名
      4th Medaka Strategic PI meeting
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 性のゆらぎ:分子機構から見えてきた性の特徴 - 幹細胞が生み出す性のフレキシブルさと頑強さ -2018

    • 著者名/発表者名
      田中実
    • 学会等名
      公益財団法人 大隅基礎科学創成財団 第4回 創発セミナー
    • 招待講演
  • [学会発表] 生殖腺研究最前線 性決定における生殖幹細胞機能と代謝制御2018

    • 著者名/発表者名
      田中実
    • 学会等名
      日本アンドロロジー学会 第37回学術大会
    • 招待講演
  • [学会発表] Gonadal Sex Differentiation in two Oryzias species2018

    • 著者名/発表者名
      Carranza, J. Takehana, Y. Nishimura, T. Tanaka, M.
    • 学会等名
      日本動物学会中部支部大会
  • [学会発表] 熱ストレス環境下でのnanos2の機能解析2018

    • 著者名/発表者名
      住田流香、西村 俊哉、吉村泰河、田中 実
    • 学会等名
      日本動物学会中部支部大会
  • [学会発表] メダカのオスの生殖細胞における遺伝子発現誘導の系の開発と卵の運命を決定する因子の探索2018

    • 著者名/発表者名
      吉村泰河、菊地真理子、西村俊哉、竹内秀明、田中 実
    • 学会等名
      日本動物学会中部支部大会
  • [学会発表] 生殖細胞の性決定機構 - メダカfoxl3下流で働く新規因子の同定 -2018

    • 著者名/発表者名
      菊地 真理子、西村 俊哉、斎藤 大助、重信 秀治、髙田 律子、Jose; Arturo Gutierrez-Triana、Juan Luis Mateo Cerdan、高田 慎治、Joachim Wittbrodt、須山 幹太、田中 実
    • 学会等名
      日本分子生物学会年会
  • [学会発表] The regulation mechanism of medaka sex differentiation by the metabolic change2018

    • 著者名/発表者名
      Sakae, Y., Oikawa, A., Sugiura, Y., Mita, M., Nishimura, T. and Tanaka, M
    • 学会等名
      日本分子生物学会年会
  • [学会発表] Labeling Germ Cells in Medaka-Related Species for Sex Determination Studie2018

    • 著者名/発表者名
      Carranza, J. Takehana, Y. Nishimura, T. Tanaka, M.
    • 学会等名
      The 9th International Symposium on Fish Endocrinology (9ISFE2018)
    • 国際学会
  • [学会発表] Germline sex determination by nanos3, a component of germ plasm2018

    • 著者名/発表者名
      Nishimura T. and Tanaka, M.
    • 学会等名
      4th Medaka Strategic PI meeting
    • 国際学会
  • [学会発表] Analysis of foxl3-downstream genes2018

    • 著者名/発表者名
      Kikuchi M, Saito D, Shigenobu S., Suyama M, Nishimura T and Tanaka, M.
    • 学会等名
      Seminar in College de France
    • 国際学会
  • [図書] 遺伝子から解き明かす性の不思議な世界2019

    • 著者名/発表者名
      田中実(編著)
    • 総ページ数
      542
    • 出版者
      一色出版
    • ISBN
      978-4-909383-06-8
  • [図書] Regulation of germline stem cells in the Teleost: Gametogenesis, Sex, and Fecundity2018

    • 著者名/発表者名
      Tanaka, M.
    • 総ページ数
      9
    • 出版者
      Springer Japan
    • ISBN
      978-4-431-56607-6
  • [備考] 名古屋大学大学院理学研究科 生命理学専攻 生殖生物学グループ

    • URL

      http://www.medaka.bio.nagoya-u.ac.jp/

  • [産業財産権] ゲノム編集技術2018

    • 発明者名
      田中実、西村俊哉
    • 権利者名
      国立大学法人名古屋大学
    • 産業財産権種類
      特許
    • 産業財産権番号
      2018 - 158921

URL: 

公開日: 2019-12-27  

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