研究領域 | 性スペクトラム - 連続する表現型としての雌雄 |
研究課題/領域番号 |
17H06430
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
田中 実 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (80202175)
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研究分担者 |
山本 耕裕 大阪医科大学, 医学部, 講師 (20613558)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 生殖細胞 / 性決定 / 性転換 / 環境 / メダカ |
研究実績の概要 |
5日間絶食状態においた孵化直後のXXメダカがオスへと性転換する現象の系統特異性並びに分子機構の解析を行なった。これまでにメダカの代謝物をLC-FTMS と CE-MS/MSによるメタボローム解析を行い、その結果パンテトン酸が有意に変動していること、その異化酵素を阻害すると性転換が引き起こされることを確認してきた。さらにパンテトン酸異化経路の主要な産物である CoAが関与する代謝経路を調べオス化遺伝子の発現制御に関与するとの知見が得られつつあった。 一方、メダカの成熟卵巣および成熟精巣には性が決まっていない生殖幹細胞の存在が証明されており、メダカは性転換もすることから、生殖細胞の性スペクトラム、すなわち生殖細胞が卵になるか精子になるかの分子機構を解析する絶好のモデルを提供している。そしてChIP解析、トランスクリプトームの発現解析(DEG)などから、この性のスペクトラムの位置移動に関与する2つの因子REC8 と FBXO47の同定にも成功してきた。この2つの因子は卵巣の減数分裂前の生殖細胞で発現し、精巣では発現が認められない。このREC8 とFBXO47 の変異体を作製し、その表現型解析による分子機構解析を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
孵化したメダカを5日間絶食状態に置くと、XXメスの約20%がオスへと性転換することをCab系統で見出していたが、これが系統特異的な現象であるかを確認するため、Hd-rR 系統においても同様な実験を行なった。その結果絶食をさせない場合性転換体は出現しないが、絶食状態に置いた場合は数%のXXメスが精巣を持つ機能的なオスになることが確認された。 この絶食状態では、メダカ稚魚のOilRedO染色性が著しく減少することが見出されたため、CoAが関与する脂質合成系に着目しHPTLC 解析を行ったところ、トリグリセロールが有意に減少していた。そこでXXメスの稚魚の脂質合成経路を薬理学的に阻害すると機能的精巣を持つ性転換体が出現した。さらに絶食状態に置いたXXメスの稚魚では生殖腺のオス化に必須のdmrt1 遺伝子が発現し、これは脂質合成経路を薬理学的に阻害したときにも発現した。dmrt1変異体では阻害処理でも性転換体は出現しなかったことから、性転換はdmrt1の発現を引き起こしていることが判明した。 REC8 とFBXO47 の変異体解析ではエピスタティックな解析によりこの2つの因子が関与する経路が遺伝的に独立した経路であることが示された。さらに哺乳類で卵形成に関与する因子遺伝子の変異体を作製その系統の確立を行っている。また解析のための抗体作製を行ったが、コロナ感染のために作製が遅れ、その作製は次年度への継続となった。 しかし、全体として性スペクトラムの経路が明らかになるなど分子機構は着実に解明されていると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
脂質合成に重要な遺伝子Fasnの変異体を作製しその系統確立を行いつつあるが、この変異体のXXメスの稚魚でもdmrt1 遺伝子発現が予備的に確認されている。今後この系統の確立を行い、表現型解析を推進する。 生殖細胞の性スペクトラム研究では、哺乳類卵形成に関与する因子遺伝子の変異体の確立を行うとともに、REC8 とFBXO47 の変異体と交配しエピスタティックな関係を明らかにする。REC8 は減数分裂時の姉妹染色体を結びつけ、クロマチンループ構造を制御する因子であることが先行研究で示されている。FBXO47も染色体構造を制御する可能性が示唆されるため、変異体における染色体の状態をスプレッドにより解析するとともに、その構造のマーカーとなる因子の抗体作製を急ぐ。
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