アカミミガメの温度依存型性決定においてはオス産生温度(26℃)、メス産生温度(31℃)において遺伝子発現解析をおこなっていきたが、生殖腺分化に関連する遺伝子なのか、単に温度によって発現変動する遺伝子なのか区別が難しい。そこで、オスとメスの性比が1:1で生まれる温度条件をみつけ(pivotal temperature; PvT)、温度が確率的に決まる条件での遺伝子発現変動を行うことにした。過去の知見から29℃がPvTであると予想していたが、29℃あるいは29.5℃で孵卵してもほぼオスが生まれることがわかり、オス産生温度とメス産生温度のリアクションノームは急峻な曲線となることが示唆された。一方で、26℃で孵卵したオス胚、29℃で孵卵したオス胚、および31℃で孵卵したメス胚の生殖腺の同じステージでの遺伝子発現を比較したところ、29℃の生殖腺は、、26℃および31℃の生殖腺よりもかなり未分化な状態であることが示唆された。このことは温度情報の蓄積が精巣あるいは卵巣への分化を促進するのではないことを示すものである。また、クサガメ生殖腺にTRPに応答する細胞が存在することをカルシウムイメージングにより確認した。また、従来の研究で見いだしてきたパントテン酸経路については、器官培養系において少なくとも遺伝子発現レベルでは生殖腺分化に関与するデータが得られた。アデノ随伴ウイルスを用いた爬虫類胚への遺伝子導入法については、インジェクション方法を改善することにより遺伝子導入効率を高まり、DMRT1による性転換効率は昨年度よりも向上したが、RNAシークエンスで得られた性分化関連候補の遺伝子導入では性転換は見られなかった。
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