計画研究
光化学系Ⅱにおける電子・プロトン移動反応および水分解反応について、以下の成果を得た。1.光合成水分解機構:(1)光化学系Ⅱタンパク質の微結晶を用いて光誘起フーリエ変換赤外分光(FTIR)解析を行い、2閃光照射により、X線自由電子レーザーによる結晶構造解析に十分な量のS3状態が生成することを示した。(2)時間分解赤外分光法を用いて、水分解反応におけるS2-S3遷移の電子・プロトン移動反応の詳細を調べ、この遷移ではプロトン移動律速の電子移動反応が起こることを示した。(3)YZ近傍に存在するD1-Asn298のAla変異体を作成し、熱発光・遅延蛍光およびFTIR測定から、YZ近傍の水素結合ネットワークがS2-S3、S3-S0遷移におけるプロトン放出経路として機能する可能性を示唆した。(4)偏光全反射赤外法および量子化学計算により、Mnクラスターに水素結合するD1-His337は、常にプロトン化したカチオン型として存在しており、このHisの正電荷が、Mnクラスターを高い電位に保ち、水分解能の発現に重要な役割を果たしていることが示された。2.二量体クロロフィルP680の高い酸化還元電位の発現機構:アミノ酸改変によりP680に非対称的に水素結合を導入し、FTIR解析を用いてP680+上の電荷分布を調べた結果、正電荷はD1側に偏って存在しており、これが、P680の高い酸化還元電位とYZからの速い電子移動速度の原因であることが示された。3.Cytb559の電位制御機構:Cytb559の近傍アミノ酸に部位特異的変異を導入し、その影響を調べた。その結果、軸配位子の改変により、ヘムが失われて非ヘム鉄となり、PSII中の他の電子伝達コファクターも影響を受けることが示された。
2: おおむね順調に進展している
A01班が作成した光化学微結晶を用いた光誘起FTIR解析により、閃光照射後のS3中間状態の量を見積もり、S3の結晶構造解析に貢献することができた。また、水分解反応におけるプロトン共役電子移動機構やプロトン放出経路、P680上の電荷分布の見積もりなど、当初予定していた研究についてはおおむね成果を上げ、論文として発表することができた。
水分解機構については、YD欠損株より調製した光化学系Ⅱタンパク質を用いて、各中間状態遷移における電子・プロトン移動過程を、時間分解赤外分光法を用いてさらに詳細に調べる。pH依存性とD2O効果を調べることにより、プロトン移動と電子移動の時間相関を明らかすることができると考えている。光化学系Ⅱ微結晶の赤外分光解析もさらに進め、顕微赤外分光を用いて、単一の微結晶の閃光誘起FTIR差スペクトルを観測する予定である。反応中心クロロフィルについては、P680やChlD1の軸配位子を改変し、カチオン生成および励起三重項生成反応の機構を調べる。さらに、キノン電子受容体やシトクロムb559など、他の電子伝達成分についても、赤外分光や変異導入によって、それらの酸化還元電位の制御機構を明らかにしてこうと考えている。
すべて 2018 2017 その他
すべて 雑誌論文 (12件) (うち国際共著 2件、 査読あり 12件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (20件) (うち国際学会 6件、 招待講演 4件) 備考 (1件)
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