研究領域 | 光合成分子機構の学理解明と時空間制御による革新的光ー物質変換系の創製 |
研究課題/領域番号 |
17H06440
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
工藤 昭彦 東京理科大学, 理学部第一部応用化学科, 教授 (60221222)
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研究分担者 |
石谷 治 東京工業大学, 理学院, 教授 (50272282)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 二酸化炭素還元 / 人工光合成 / 半導体光触媒 / 金属酸化物 / 分子光触媒 / 金属錯体 |
研究実績の概要 |
NaTaO3:Sr半導体光触媒を用いた水を電子源とする二酸化炭素還元によるメタン生成の高活性化を目指して助触媒の共担持を試みた。単独担持体を用いた場合と比較して, 2種の貴金属助触媒を共担持することでメタンの生成速度および選択率が向上した。このとき,得られた還元生成物に対してほぼ見あった量の酸素が生成していることから,水を電子源に反応が進行している。このように,水を電子源および水素源に用いた光触媒的二酸化炭素還元によるメタン生成を効率化できたことは革新的な成果である。また光電気化学系では,(CuGa)1-xZn2xS2が可視光二酸化炭素還元用光カソードとして機能することを見いだした。本金属硫化物固溶体光カソードは,従来のCuGaS2光カソードよりも安定に駆動しかつ高い二酸化炭素還元活性を示した。また,金属酸化物であるSrTiO3:Rhも可視光二酸化炭素還元用光カソードとして働くことがわかった。そして,SrをCaで置換することで二酸化炭素還元活性を向上させることに成功した。一方,半導体とのハイブリッド光触媒において重要な役割を果たすCO2を分子内に取り込んだRu(II)-Re(I)超分子光触媒が, そのCO2をCOへと還元する反応機構を検討した。時間分解IRおよびUV-vis吸収スペクトル, さらに電気化学的手法を複合的に用いることで, 光電子移動反応により生成するRu(II)光増感部の1電子還元種からRe(I)触媒部へと分子内電子移動する過程, および生成したRe(I)錯体部の1電子還元種から反応中間体へと変化する過程に関する重要な情報を得た。Ru(II)-Re(I)超分子光触媒をアルミナ上に様々な吸着密度で固定化し, そのCO2還元触媒能を追跡することで, 固体表面でもCO2還元光触媒を駆動できることを明らかにした。2種のモデル単核錯体を同様の方法で固定化した場合は光触媒反応が進行しなかったことから, 固体表面に固定化した場合の超分子光触媒の優位性が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度では,ある種の貴金属助触媒をNaTaO3:Srに担持することで,水を電子源に用いた二酸化炭素還元によるメタン生成を実証した。そして本年度では,2種の貴金属助触媒を共担持することで,そのメタン生成活性および選択性が向上することを見いだし,金属酸化物光触媒によるメタン生成に対する効果的な反応場を設計することに成功した。以上のように,水を電子源とする光触媒的メタン生成を達成し,その高性能化にも成功したことは画期的な成果である。また,可視光二酸化炭素還元用の金属硫化物および金属酸化物光カソードを新たに開発し,二酸化炭素を固定化するための湿式光電気化学セルのライブラリーを拡張できた。特に,光腐食性材料である金属硫化物を光カソードに用いて,24時間にわたって安定に光電気化学的可視光二酸化炭素還元が進行したことは特筆に値する。また,これまでの研究により, Ru(II)-Re(I)超分子光触媒がCO2をCOへと還元する反応は,(1)光触媒のRu光増感部が光吸収し還元剤により還元的消光を受ける過程,(2)これによって生成するRu(II)光増感部の1電子還元種からRe(I)触媒部へと分子内電子移動する過程,(3)生成したRe(I)錯体部の1電子還元種から反応中間体へと変化する過程, そして(4)反応中間体が更に1電子還元されCOを放出する過程を経て進行する。これまでの研究により, 過程(1)―(3)までに関する詳細なデータを得ることに成功した。これらの情報は, さらに高効率な超分子光触媒を開発するための足掛かりとなることが期待できる。固体表面において, 光増感部と触媒部を連結した超分子光触媒が有効に機能することが明確になり,その機能を増強する手法も確立できた。以上のように,当初の計画に沿って研究を遂行できていることから,おおむね順調に研究が進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
金属酸化物半導体光触媒を用いた二酸化炭素還元によるメタン生成の高活性化のために,助触媒共担持種および担持法のさらなる探索を行う。さらに,助触媒を担持した光触媒に対して様々な雰囲気において熱処理を行い,その二酸化炭素還元能を調べる。これら助触媒に対する詳細なキャラクタリゼーションを実施し,メタン生成に有効な助触媒の物理的および化学的状態を明らかにする。加えて,助触媒に対する(光)電気化学測定も行う。これら知見から,水を電子源とする光触媒的二酸化炭素還元によるメタン生成の反応メカニズムを解明し,より高性能な二酸化炭素還元用助触媒の開発指針を得る。また,太陽光を有効に活用して二酸化炭素を固定化するために,可視光照射下で水を電子源に二酸化炭素を還元する単一粒子型光触媒系・Zスキーム型光触媒系・光電気化学系ライブラリの拡張も継続して推進する。また,これまでに明らかにした, 半導体とのハイブリッド光触媒において重要な役割を果たすCO2を分子内に取り込んだRu(II)-Re(I)超分子光触媒の光還元過程とその反応性に関する情報を基にし, その後続過程(上記過程(3)と(4))の完全解明を目指す。特に, 過程(3)により生成する準安定な中間体の構造を確定するため, 計算的手法も取り入れる予定である。長い寿命を有する遅延蛍光分子を有機光増感剤として用いた高効率CO2還元光触媒系の開発を目指す。超分子光触媒と半導体光触媒を融合した色素増感分子カソードを新たに開発し, 半導体光アノードと組み合わせることで水を還元剤とするCO2光触媒還元系を構築する。
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