安価で入手容易な4価塩化チタン触媒をアセトニトリル溶媒中で用いることで、光照射によりクロロラジカルが生成し、これがアルカンの炭素ー水素結合を一電子的に開裂することを見い出した。ここで生じる炭素ラジカルはケトンのカルボニル炭素を攻撃し、生じたアルコキシラジカルを3価チタン触媒が還元することで、ケトンのアルキル化反応が進行した。シクロヘキサンのような単純アルカンをケトンと反応させ、第三級アルコールを生じる数少ない反応の一つである。 我々が開発したチオリン酸系の有機触媒を一電子酸化して、有用な水素引き抜き触媒となるSラジカルが生じる機構を解明した。まず、チオリン酸の電子豊富なビナフチル骨格がプロトン化された基質である電子不足の含窒素芳香環とπーπ相互作用を形成し、電子移動錯体を形成する。これは可視光を吸収し、光照射によりビナフチル部分から含窒素芳香環に一電子移動が起こり、ビナフチル部分に非局在化したラジカルカチオンが生じる。これに対して、チオリン酸部位から二段階目の電子移動がPCET機構で進行し、水素引き抜き活性のあるSラジカルが生じる。この機構は、生体内の多段階電子移動を最小限の形でミミックしたものであり、新たな触媒設計の基盤となりうる。 有機合成化学においてはあまり使用されることの無いゲルマニウム塩を用いて、第一級アミンのα位のアルキル化反応を見い出した。アミンの窒素原子がゲルマニウム触媒と相互作用することによって、α位の炭素ー水素結合の弱化が起こり、水素引き抜きによる炭素ラジカル生成が促進されることが重要なステップである。 我々が開発した、チロリン酸イミド有機触媒ー光触媒ークロム触媒系に、ニッケルLewis酸触媒を組み合わせた四成分ハイブリッド触媒系を用いると、反応位置のスイッチが起こり、直鎖選択的に生成物を与えた。
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