研究領域 | 分子合成オンデマンドを実現するハイブリッド触媒系の創製 |
研究課題/領域番号 |
17H06445
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
畑中 美穂 奈良先端科学技術大学院大学, 研究推進機構, 特任准教授 (80616011)
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研究分担者 |
諸熊 奎治 京都大学, 福井謙一記念研究センター, 研究員 (40111083) [辞退]
Sameera W.M.C. 北海道大学, 理学研究院, 博士研究員 (90791278)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 反応経路自動探索 |
研究実績の概要 |
本年度はハイブリッド触媒系設計の足掛かりとして、反応経路自動探索(Global Reaction Route Mapping: GRRM)を用いた種々の反応の機構解明に取り組んだ。初めに着目したのは、相間移動触媒を用いたアミノ化による不斉四級炭素の構築における立体選択性発現機構である。本研究で着目した相間移動触媒は、触媒中心となる二つのアミンの間にアルキル鎖があるため、触媒自体が柔軟に構造変化し、多数のコンフォメーションを取る可能性がある。そこでGRRMの一つである非調和下方歪追跡法(Anharmonic downward distortion following: ADDF)を用い、触媒のコンフォメーションを網羅的に探索したところ、多数のコンフォマーが得られたが、ほとんどのコンフォマーは触媒内の立体反発により安定に存在せず、一つのコンフォマーだけが安定に存在することが分かった。さらに触媒の安定なコンフォマーと反応物の会合体の構造を調べることで、生成物の立体選択性が反応前駆体の安定性によって決まっていることが分かった。 着目した反応二つ目は不斉トリアゾリウム塩を用いる開環付加反応である。本反応では、反応物にアジリジンのラセミ体を用いると、S体だけが反応し、R体は未反応のまま回収されることが実験的に明らかにされている。そこで、この理由を明らかにするために、GRRMのもう一つの方法である人工力誘起反応法(Artificial force induced reaction: AFIR)を用いて、触媒と二つの反応物(オキシインドールとアジリジン)の安定構造、及び、それらの間の炭素―炭素結合生成段階の遷移状態を網羅的に調べた。その結果、アジリジンと触媒の会合体形成による安定化エネルギーがS体・R体で大きく異なり、R体は触媒との立体反発が大きく、会合体を形成しにくいことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複数の反応の理論的機構解明を同時に行っているが、当初の計画以上に早く機構を明らかにできたものもあれば、機構解明の後に理論的触媒設計の足掛かりが得られ、当初の計画以上の進展があったものもある。逆に、計画時には予期していなかった計算上問題により、進捗状況の芳しくないものもあるため、一概には言えないが、全体的にはおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
反応経路自動探索による触媒反応の機構解析を行うことで、反応性や選択性を決める鍵を効率的に抽出することは可能になりつつある。この情報を元に、鍵となる段階の遷移状態を様々な触媒に対して求めれば、理論的触媒スクリーニングも可能になり、従来よりも高効率な触媒設計が可能になると期待できる。しかし、遷移状態の計算は(反応経路自動探索を用いたとしても)容易な計算ではないため、高速な理論的触媒スクリーニングの実現には未だ到達していない。 そこで、反応性や選択性を決める鍵を(遷移状態よりも簡便に計算できるパラメタとして)数値化し、このパラメタのスクリーニングによって望む活性を持つ触媒を理論的に見つけることを目指す。
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