計画研究
ブレンステッド塩基触媒と光レドックス触媒のハイブリッドシステムを用いたシリルエノールエーテルのアリル位C-Hアルキル化反応を開発した。本反応では、光レドックス触媒と組み合わせるブレンステッド塩基触媒の選択が極めて重要であり、酸化されやすいアルキルアミンや不均一となる無機塩基を加えても目的の反応は進行しないことを確認している。また、反応開発の過程で、光レドックス触媒によるシリルエノールエーテルの一電子酸化によって生成するラジカルイオンの性質を明らかにした。ここで得られたラジカルイオンの強酸性に関する知見を活用することで、ユニークな新規反応の開発にも成功している。また、光レドックス触媒とのハイブリッドシステムにより水素原子移動反応の優れた触媒として機能する双性イオン型トリアゾリウムアミデートを創製した。酸化還元電位の測定や消光実験、理論計算による結合解離エンタルピーの算出によって新規触媒の性質を理解し、水素原子移動反応に有効なアミジルラジカル前駆体としての触媒機能を引き出すことに成功した。実際に、エーテル等の含ヘテロ原子炭化水素化合物の効率的C-Hアルキル化反応の実現へと結実させた。ハイブリッド触媒システムによって初めて実現可能な立体選択的分子変換反応として、L体のアミノ酸誘導体をD体の誘導体に変換する触媒的立体反転法を開発した。本反応では、適切な構造を有するアルデヒド、ルイス酸、パラジウム錯体、キラルブレンステッド酸の4つの触媒の利用が鍵となる。今後、キラルブレンステッド酸の構造最適化により、生成するD-アミノ酸誘導体のエナンチオマー過剰率の更なる向上や適用範囲の拡大が期待される。
2: おおむね順調に進展している
上述のシリルエノールエーテルのアリル位C-Hアルキル化反応や、アミノ酸誘導体の触媒的立体反転法など、ハイブリッド触媒システムによって初めて実現可能な反応開発が着実に進んでいる。また、トリアゾリウムアミデートをはじめ、新規ハイブリッド触媒システムの開拓に資する触媒創製も進展してきている。トリアゾリウムアミデートは、分子認識部位やキラルな部分骨格を付与するといった更なる構造修飾が可能である。また、イオン性のラジカル活性種を生成させるため、キラルな対イオンの利用によって不斉が誘起できる可能性がある。今後、本触媒の特徴を踏まえた適切な構造設計やハイブリッド触媒システムの構築を行うことで、ラジカル触媒反応の精密制御の実現につなげたい。また、ハイブリッド触媒システムによる立体分岐型不斉合成の端緒となり得る反応として、一つの炭素求核剤とニ種類の求電子剤が、ワンポットで、ある決まった順序で連続的に結合形成を起こす交差求電子剤型三成分反応を発見した。代表者らがこれまでに開発した光学活性1,2,3-トリアゾリウム塩を触媒とすることで、すでに高いレベルの立体制御を達成しているが、キラル有機分子触媒-キラル遷移金属錯体ハイブリッド触媒システムの採用により、本不斉触媒反応を立体分岐型不斉合成に展開できる。
引き続きハイブリッドキラル触媒系の創出に資する触媒分子設計を継続する。また、立体分岐型不斉合成の実現を見据えつつ、より広い視点からハイブリッド触媒によって初めて実現可能な反応開発を推し進める。4つの触媒が協働するハイブリッド触媒システムによるアミノ酸誘導体の触媒的立体反転法の完成を目指すが、立体選択性向上のためには適切なキラルブレンステッド酸の発見が鍵となる。この触媒探索を効率的に遂行するため、、代表者らのグループでの触媒開発に限らず、本新学術領域内の研究者と共同研究を実施する。また、トリアゾリウムアミデートの構造修飾と応用について、領域内の共同研究を本格的に始動させる。キラルな分子骨格を備えた触媒分子を合成・提供し、不斉水素原子移動反応の開発を共同で行う。さらに、交差求電子剤型三成分反応については、実験と理論の両面から反応機構を解析することで立体分岐型不斉合成の実現に必要な知見を集積する。理論計算については、領域内あるいは代表者の所属機関の研究者と協力して進める。ハイブリッド触媒システムによる反応開発や新規触媒の創製が順調に進展してきているが、残り研究期間中に立体分岐型不斉合成を実現するためには、研究をさらに加速させる必要がある。そのため、代表者および連携研究者が指揮するそれぞれのチームに、本研究専任の大学院生を増員する。
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