研究実績の概要 |
本領域にて、銅/キラルN-ヘテロ環カルベン(NHC)錯体触媒とシリルボロン酸エステルを用いて、アルデヒドからキラルなa-アルコキシアルキル銅種を触媒的に発生させる手法を開発した。生成したa-アルコキシアルキル銅種は、様々な求電子剤と反応し、他の手法では困難なキラルアルコールの合成を可能にした。本反応におけるエナンチオ決定段階は、銅/キラルNHC錯体とシリルボロン酸エステルとの金属交換で生成するシリル銅錯体のアルデヒドへの1,2-付加反応である。そこで、1,2-付加反応の遷移状態を分子場解析し、エナンチオ選択性制御に関わるNHC配位子の構造情報を抽出・可視化することで、高選択性を実現するキラルNHC配位子の開発に繋げた。 まず、6種類の芳香族アルデヒドと3種類のキラルNHC配位子を用いてアルデヒドの1,2-シリル付加反応を実施した。続いて、得られた18個の実験結果と良い一致を示すDFT計算モデルを、エナンチオ決定段階であるシリル銅錯体のアルデヒドへの1,2-付加の遷移状態の活性化エネルギーを用いて評価し、決定した。DFT計算で得られた18個の遷移状態構造を分子場解析し、エナンチオ選択性の向上に関する構造情報を可視化した。この情報に基づき、2つのNHC配位子を設計・合成し、1,2-付加反応に用いたところ、それぞれ高いエナンチオ選択性が発現した。 エナンチオ選択性のさらなる向上を目指し、この2つのNHC配位子を用いて6種類の芳香族アルデヒドとの反応を実施して得られた実験結果12個を加えた計30個のサンプルを用いて再度分子場解析し、エナンチオ選択性に関する構造情報を可視化した。新たにNHC配位子を設計合成し、1,2-付加反応に適用したところ、高いエナンチオ選択性を示し、従来の配位子の結果を大きく上回る結果を示した。 本成果は、Bull. Chem. Soc. Jpn誌に報告された。
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