研究領域 | 分子合成オンデマンドを実現するハイブリッド触媒系の創製 |
研究課題/領域番号 |
17H06450
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
丸岡 啓二 京都大学, 薬学研究科, 研究員(特任教授) (20135304)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | ハイブリッド触媒 / ドミノ反応 / アルキルシリルペルオキシド / ラジカル反応 / 環状アセタール / β-ヒドロキシアルデヒド / セロトニン拮抗薬 / 酸フッ化物 |
研究実績の概要 |
本研究では、独立した機能を持つ複数の触媒が、協働・重奏して作用する「高性能ハイブリッド触媒系」の構築を目指して、有機分子触媒、有機金属錯体触媒や光触媒など、多岐にわたる触媒の組合せを取扱い、それらの触媒系を活用して新たなドミノ型精密有機合成反応を開拓することを目指している。まず、アルキルシリルペルオキシドを利用する反応において、銅のみならず鉄触媒や光酸化還元触媒を用いてもアルキルラジカルが効率良く発生することを見出した。この知見を環状アセタールに適用することにより、開環生成物が得られた。特に、糖の基質に適用すると、合成中間体として有用な多官能基を有する光学活性開環生成物が得られた。一方、容易に調製できる光学活性β-ヒドロキシエポキシドを触媒量の塩化スズと反応させることにより、セミピナコール転位が立体選択的に進行し、α位に不斉四級炭素中心を有する光学活性β-ヒドロキシアルデヒドが得られた。この反応の合成的な応用として、セロトニン拮抗薬の合成を達成することができた。また、各種のN-ヒドロキシベンゾイミダゾール(NHBI)化合物を合成するとともに、理論的計算で結合解離エネルギーを計算することにより、各触媒の反応性が予測でき、有機ラジカル触媒としての活性評価を行った結果、触媒骨格にフッ素原子を導入したフッ素置換型NHBI触媒がベンジル位の水素引抜き能力に優れていることを明らかにした。さらにアンモニウム型の触媒を用いると、アルデヒドの直截的なアシルラジカル形成を経由する酸フッ化物への変換反応が起こることを見出した。これらに実験化学と平行して、ラジカル触媒反応系の理論計算による触媒反応の遷移状態の解析を進め、幾つかの興味深い結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、複数の有機分子触媒を組合わせたハイブリッド触媒系の構築を行う一方、複数の金属触媒や光触媒等を組合わせたハイブリッド触媒系の構築をも手掛け、幅広くドミノ反応系の可能性を追求した。各種のアルキルシリルペルオキシドを利用する反応において、銅のみならず鉄触媒や光酸化還元触媒を用いてもアルキルラジカルが効率良く発生することを見出し、各種の反応剤との合成変換反応に適用可能なことが判り、合成的に有用な幾つかの成果を得ている。特に糖基質を用いると、温和な条件下でラジカル開環が起こり、合成中間体として有用な多官能性の光学活性開環生成物が得られた。今後、さらに各種の有機シリコン化合物を用い、新たな炭素-炭素結合や炭素-窒素結合形成反応などを開拓したい。新たな有機ラジカル触媒としてのN-ヒドロキシルベンゾイミダゾール触媒を利用し、アルデヒドの直截的なフッ素化反応に関しては、得られた酸フッ化物から相当するアミドやエステルへの変換において高い一般性が認められた。また、酸フッ化物をアリールホウ酸やシリルエノールエーテルと反応させると、新たに炭素炭素結合形成反応が実現できている。続いて、ケトンから相当するオキサジリジンへの変換反応の一般化を検討するとともに、得られたオキサジリジンから銅触媒によってアルキルラジカルが発生することを見出し、スチレン誘導体との反応に適用することにより、ヘック型反応が進行することを見出している。今後は、理論計算を行っている研究グループとの共同研究を行い、複数の触媒を駆使する反応系の理論計算による個々の触媒反応の遷移状態の解析を進めることによって、研究の更なる進展へとつなげていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
[1]ハイブリッド触媒系を用いる選択的ラジカルフッ素化反応の開発:本研究室では最近、臭化銅とセレクトフルオルを組み合わせることにより、ベンジル位の水素引抜きによるベンジルラジカルの発生が温和な条件下で起こることを見いだしている。例えば、ベンジルエステル類からは、ベンジルラジカルの発生に続き、フッ化アシルが生成することを見いだしている。この反応系にアミノ化合物を加えると、相当するアミドが得られて来る。このドミノ反応の最適な条件を見出すとともに、アミノ酸のベンジルエステルに適用することによって、効率的なペプチド合成手法を確立したい。また、この手法をN-ベンジルアミド類に応用する。本来、不活性基なアミド結合を温和な条件下、選択的に切断し、その後、官能基化が可能になれば、不活性アミドの合成的な有用性が高くなる。最適条件を見出すことにより、効率的なアミド切断反応を達成したい。 [2]新規な超効率ドミノ反応の開発と嵩高いペプチド合成への応用:超原子価ヨウ素反応剤は、温和な条件下で容易にフェノールを活性化することが知られている。この特性を利用して、フェノール基を有するエステル類を合成し、超原子価ヨウ素反応剤で活性化することにより、エステル結合の開裂を引き起こしたい。続いて、アミノ化合物を加えることにより、相当するアミドが得られて来る。この際、嵩高いアミノ化合物を用いると収率が低下する。そこで、超原子価ヨウ素反応剤で活性化した後、フッ化水素・ピリジンで処理することにより、高活性なフッ化アシル中間体が生成する。このため、嵩高いアミノ化合物とも反応し、嵩高いアミド化合物を与えることを見出している。この新規ドミノ反応条件の最適化を行う。また、このドミノ反応系の理論計算による遷移状態の解析を進める。本ドミノ反応を、アミノ酸由来のエステル類に適用すれば、ペプチド合成が可能になる。
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