研究領域 | 分子合成オンデマンドを実現するハイブリッド触媒系の創製 |
研究課題/領域番号 |
17H06451
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
侯 召民 国立研究開発法人理化学研究所, 侯有機金属化学研究室, 主任研究員 (10261158)
|
研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
|
キーワード | 希土類触媒 / ランタン / C-H結合活性化 / 高分子化学 / 有機金属化学 / 触媒化学 / スルフィド |
研究実績の概要 |
本研究では、提案者らが独自に開発した希土類触媒や遷移金属触媒を用いて、精密有機合成と精密重合の概念融合を図り、中分子からオリゴマー・ポリマーまでを一挙かつ精密に合成できるドミノ触媒系の開発を行っている。本年度は、シクロプロペンとアリルアミン類の分子間ヒドロアミノ化反応において、触媒量のサンドイッチ型ランタン錯体の存在下に反応をおこなうと、不斉ヒドロアミノ化反応とジアステレオ選択的閉環反応が連続的に進行し、二環式シクロプロピルアミン誘導体が高エナンチオ選択的に得られることを見いだした。また、ハーフサンドイッチ型ランタン錯体を触媒として用いることで、閉環の際のジアステレオ選択性を変化させ、メチル基の立体が異なる生成物を高エナンチオ選択的かつ高ジアステレオ選択的に得ることにも成功した。さらに、ハーフサンドイッチ型希土類触媒を用い、従来の触媒系では困難なC(sp3)-H結合挿入反応を検討した。その結果、カチオン性スカンジウムアルキル種を触媒として用いたところメチルスルフィドの硫黄原子に隣接するメチル基上のC(sp3)-H結合活性化と、続くアルケン類の二重結合の挿入反応を経る付加反応が高い位置選択性で進行し、C-Hアルキル化体が高い収率で得られることを見いだした。これは活性化されていないアルケン類に対し、非対称スルフィド類の位置選択的C-H 結合挿入反応を触媒的に実現した初めての例である。 一方、本研究室では希土類触媒の助触媒として用いていたルイス酸性有機ホウ素化合物とヒドロシランとの特異な相互作用を見いだし、これを利用した触媒反応の開発も進めており、これまで、B(C6F5)3を触媒とするジアルキルアニリン類のパラ位選択的シリル化反応を報告している。本年度は、B(C6F5)3が二分子のアリールヒドロシランのC-Si/Si-H間でのメタセシス反応に高い触媒活性を示すことを見いだした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、光学活性なCp配位子を有するランタン触媒を用いてシクロプロペンとアリルアミン類の分子間ヒドロアミノ化反応を行うことにより、不斉ヒドロアミノ化反応とジアステレオ選択的閉環反応が連続的に進行し、2-アザビシクロ[3.10]ヘキサン骨格を持つ二環式シクロプロピルアミン誘導体が高エナンチオ選択的に得られ、ドミノ触媒系の開発に成功した。 また、カチオン性スカンジウムアルキル種を触媒として用いてメチルスルフィドとアルケンを反応させたところ、硫黄原子に隣接するメチル基のC-Hアルキル化体が高い収率で得られることを見いだした。本方法は医薬品や、機能性有機材料などの合成中間体として有用なスルフィド類を100%の原子利用効率にて合成することができる優れた方法である。後周期遷移金属触媒を用いたC-H活性化反応は多数報告されているが、硫黄化合物は触媒毒として働くためスルフィド類を基質として用いることは困難であり、希土類触媒を用いることによって初めて本反応が達成された。 以上のように、高ジアステレオ選択的なドミノ環化反応やスルフィド類のアルキル化反応など当初の目標を上回る成果を得ることができ、計画以上に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
希土類触媒による新規重合反応の開発においては、まずこれまでの実験結果を踏まえて、引き続き、中心金属や配位子を適切に組み合わせて、対応する様々な希土類ジアルキル錯体を合成し、これらを触媒として用いてヘテロ原子の配位を適切に活用した精密重合および共重合反応を検討していく。具体的には希土類触媒を用いた、1,4-ジメトキシベンゼンとノルボルナジエンのC-H結合重付加反応に加え、メトキシスチレン類の連鎖逐次同時重合などによって得られた末端にアニソールユニットを有する交互共重合体や多分岐ポリマーを連鎖移動剤として活用し、様々なオレフィン類の重合反応を行い、極性ユニットと非極性ユニットを有する新規マルチブロック共重合体を合成する。 次に、希土類触媒と遷移金属触媒を組み合わせたドミノ触媒系によるピリジンやアニソール類の官能基化を行う。希土類触媒を用いてピリジンやアニソール類のオルト位C-H結合を活性化し、アルキルアルミニウムなどと反応させれば希土類金属とアルミニウムが交換可能となり、オルト位にアルミニウム種を持つ化学種が触媒的に生成できる。一方、銅触媒は、有機アルミニウム種などの二酸化炭素への付加反応に高い触媒活性を示す。これらの知見を利用し、希土類触媒によるC-H結合活性化と遷移金属触媒によるカルボキシル化を融合させ、カルボキシル官能基化化合物の触媒的合成法を開発する。
|