研究領域 | 水惑星学の創成 |
研究課題/領域番号 |
17H06456
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
関根 康人 東京工業大学, 地球生命研究所, 教授 (60431897)
|
研究分担者 |
谷 篤史 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 准教授 (10335333)
荒川 雅 九州大学, 理学研究院, 助教 (10610264)
野口 直樹 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 助教 (50621760)
|
研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
|
キーワード | 惑星起源・進化 / 惑星探査 / 化学物理 |
研究実績の概要 |
本研究では、火星や氷衛星の表面で起きることが予想される、光に駆動された化学反応や氷の変形流動といった物理化学過程を室内実験により定量化することを目的とする。初年度は、上記の環境を再現する実験装置群の構築が主となり、(1)~(4)の実験についての装置設計・製作・立ち上げを行った。 (1) 光化学/液相反応実験:既存の紫外光源とグルーブボックスを組み合わせることで、鉄とマンガンの光酸化実験装置を立ち上げた。また、液相反応実験では、マンガン酸化物への微量元素の吸着実験を行い、火星探査データの解釈に必要な実験データを取得した。 (2) クラスター反応実験:実験装置の設計・製作と立ち上げを行った。まず、予備実験として既存の装置で水和クラスター生成試験を行い、実験条件の精査を行った。その結果、当初の予定より高真空での実験が必要であることがわかり、実験チャンバーの再設計を行った。 (3) 氷変形流動:メタンハイドレートの自己拡散係数を測定する装置を設計した。拡散実験では、同位体拡散対を作ることで、精度のよい拡散係数の測定を行う手法を開発した。クラスレートの作成装置は順調に製作を終え、予備実験を行うことができた。 (4) 氷結晶・クラスレート実験:その場でのクラスレート形成が観測可能な低温高圧小型容器を開発・製作した。また、観測の際に必要となる高速ラマンイメージング計測を実施するため、ラマンビューを導入した。以上により、クラスレート形成過程の観察を行える実験環境を整えることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね当初の予定に即して、実験装置群の設計・構築を行うことができた。光反応実験・液相実験については、すでに酸化物への微量元素の吸着実験を行い、火星探査データを解釈可能な結果を予定を上回るペースで得ている。一方、クラスター反応実験については、当初予定していた真空装置の設計より高真空状態にしなければ、目的をする水和クラスターが生成できないことがわかったため、真空チャンバーの再設計を行った。そのため、5か月程度の遅延が生じ、一部の研究費を次年度に繰り越すこととなった。ただし、遅延自体は致命的なものではなく、その後の計画で十分に遅延を取り戻せるものである。以上により、本研究が遂行する4つの実験装置全体としては、おおむね順調に進展しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、構築した装置を用いた本格的な実験を行い、実験データを提供することで、領域全体で構築する水・物質循環を記述する理論モデルの構築に貢献する。また、光反応実験については、新規に氷への紫外線・電子線照射実験装置を設計・構築していく。(1)~(4)の実験についての具体的な計画は以下の通りである。 (1) 光化学/液相反応実験:高真空チャンバーとターボ分子ポンプ、冷凍機を用いた氷への紫外線・電子線照射実験装置を構築する。対象は、氷と硫黄化合物、塩化物の混合物であり、生成物を分光分析及び溶液分析する。結果を氷衛星表面物質と比較することで、実際の天体表面での物質進化過程を制約する。 (2) クラスター反応実験:構築した実験装置にレーザーを導入し、水和クラスターなどの光で駆動された化学反応を模擬する実験を行う。反応生成物は、既存の飛行時間型質量分析計で定量する。これらから、火星上での酸化物の生成過程の実験データを得る。 (3) 氷変形流動実験:構築した装置を用いて、高圧氷やクラスレートの塑性流動則を導く。特に、氷天体の内部進化に重要となるメタンクラスレートについて、その自己拡散係数を測定、定式化する。 (4) 氷結晶・クラスレート実験:構築したクラスレート観察実験装置及びイメージング計測系を用いて、氷天体の内部海や氷地殻内での物質交換や、表層でのガス放出過程を制約していく。特に、物質交換の平衡定数を明らかにすることで、内部海の溶存ガス種の組成の決定要因を明らかにしていく。
|