計画研究
本研究では、火星や氷衛星の表面で起きることが予想される、光に駆動された化学反応や氷の変形流動といった物理化学過程を室内実験により定量化することを目的とする。令和2年度では、上記の環境を再現する実験装置群を使った研究の実施が主となる。(1)~(4)の実験についての実験・研究実施を行った。(1) 光化学/液相反応実験:嫌気状態の氷・水溶液への紫外線・電子線照射実験装置を用いて、光酸化反応の反応率を得た。特に、水溶液の酸素濃度を制御し、中性pHまでの量子収率を得ることに初めて成功し、これを使った火星表層水での酸化鉄沈殿速度を明らかにした。(2) クラスター反応実験:酸化鉄クラスターと気相メタンとの化学反応により、メタンが効率的に気相から除去されることを明らかにした。これは火星でのメタンの噴出とその後の急激な減少を説明する化学過程である可能性もあり、現在は定量的な消費率を求めてメタン除去に必要となるクラスター量を求めている。(3) 氷変形流動実験:低温高圧条件におけるメタンクラスレートのケージ内の状態を実験的に明らかにした。ケージの構造を推定し、高圧下における流動性への示唆を得た。特に、巨大氷衛星タイタンの高圧氷層の流動に対して重要な制約となる。(4) 氷結晶・クラスレート:実験で得られたクラスレートの熱物性を用いて、氷天体の熱進化への影響を系統的に評価した。また、実験によりセミクラスレートハイドレート系の分解エンタルピーといった基礎熱力学データを取得した。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定に即して、構築した実験装置群を用いた研究を展開している。また、得られた実験データを数値モデルに導入することで、氷天体の内部・表層の進化を明らかにする研究を進めている。特に、中性pHにおける鉄光酸化反応の量子収率を実験的に得て、初期火星上での鉄沈殿率を求めたことは、国内外の関連研究者に大きなインパクトを与えた。このような物理化学と惑星科学の融合研究は、A02班と他班との間で生じている。当初の予定を上回るペースで一部研究、特に融合研究が進展している。本研究が遂行する4つの実験装置全体としては、おおむね順調に進展しているといえる。
令和2年以降の研究推進方策は以下の通りである。氷テクトニクスについては、様々な化学組成を持つ氷の変形流動則・クラスレートを含めた物性を調べ、氷に対する不純物の供給源が表層にある場合と、内部の岩石コアにある場合に対して、氷天体のテクトニクスの多様性が如何に生み出されるかをA03班と共同で明らかにし、氷天体のテクトニクスの多様性の支配要因を解明する。表層物質進化については、実験生成物と惑星・衛星表面の観測とを比較する研究を本格的に始め、実験を中心とする研究段階から、実験と観測を両輪とする研究段階へと進めていく。観測については、すばる望遠鏡や火星探査車キュリオシティのデータの解析をB02班と共同して行っていく。(1)~(4)の実験についての具体的な研究推進方策は以下の通りである。(1) 光化学/液相反応:実験で得られた鉄光酸化反応率を、1次元湖化学循環モデルに導入し、初期火星に存在していたと考えられる酸化還元成層する湖が出現する湖の対流速度や地下水の湧昇速度を制約する。(2) クラスター反応:酸化鉄クラスターとメタンとの反応率を求め、火星大気中のメタンの消費過程として、クラスター反応の可能性を定量的に評価する。特に、メタン消費のために必要な鉄クラスター量を求め、火星土壌に含まれる非晶質酸化鉄存在量と比較する。(3) 氷変形流動:氷の変形実験を行い、A03 班のモデルに実験データを提供し、大型氷天体の内部進化を議論する。特に、タイタン内部での高圧氷の流動則に基づき、内部から地表へのメタン供給フラックスを求める。(4) 氷結晶・クラスレート:クラスレート形成に伴う同位体分別効果を実験的に明らかにし、タイタン大気中のメタン同位体組成の測定結果から、氷地殻中のメタンの同位体比やタイタン材料物質中のメタン同位体組成を推定する。
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すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (16件) (うち国際共著 5件、 査読あり 14件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (28件) (うち国際学会 6件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
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