計画研究
水惑星表層の水-岩石系に存在する酸化還元・pH勾配は、生命にエネルギーを供給する。そのため、これらの勾配を支配する水環境の物理化学条件(pH、酸化還元状態、元素濃度)を復元することは、水惑星と生命の関係を探るうえで本質的である。水環境の物理化学条件の違いにより、異なる水-岩石反応が生じて多様な固相生成物が残る。地球化学分野では、地球試料の先端的分析や反応モデルの適用に基づく分子レベルからの積み上げにより、表層で生じる反応過程や物質循環の解析が展開されてきた。そしてこれらに基づき、地球の固相試料から、水環境の物理化学条件を復元する物質指標(プロキシ)が開発され、多方面に適用されてきた。このような分子地球化学的手法を、太陽系天体探査や「はやぶさ2」帰還試料を含む地球外試料へ適用することは、水惑星の進化を読み解く有力な手段となる。本計画研究は、領域全体における最先端の分析拠点の構築と水環境復元のための化学反応素過程の解明を担っている。その中核的テーマとして、(1) X線顕微鏡(STXM)を中心とする分析拠点による分子地球化学的解析の推進、(2) 水-岩石反応の解析による分子地球プロキシの開発、(3) (1),(2)の地球外試料への応用による水惑星の物質循環や進化史の解明を推進する。本年度までにSTXM専用ビームライン(BL)を高エネルギ加速器研究機構(KEK)に建設し、計画通りファーストライトを行うことができた。分子地球化学プロキシの検証と適用に関しては、火星古環境の復元を可能にするプロキシ適用を、他班との融合研究により進めている。またリュウグウ母天体における水岩石反応を読み解くのための検討をA01班との融合研究により進めている。また、A01班との融合研究で、吸着反応における同位体分別を各元素の性質から系統的に解明することで、新しい同位体地球化学プロキシの開発を進めている。
2: おおむね順調に進展している
予定通り、STXM専用ビームライン(BL)をKEKに建設し、計画通りファーストライトを行うことができた。
「はやぶさ2」など惑星探査による帰還試料分析用に、他研究機関と共通の試料セルを利用可能にする試料装着法などを開発する。また、構築したビームラインで標準試料の測定を行い、化学種解析に必要なデータベースの構築を行う。これらを基盤にして、コンドライト隕石や火星隕石の有機物や鉄・硫黄などの化学種解析を行い、水が存在した当時の環境の推定を行う。さらに火星探査車の取得している堆積物の分析データに対して、それまでに確立したプロキシを適用し、火星表層酸化過程の気候進化・表層酸化過程の解明を行う。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (9件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件)
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