研究領域 | 次世代物質探索のための離散幾何学 |
研究課題/領域番号 |
17H06462
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
橋本 幸士 大阪大学, 理学研究科, 教授 (80345074)
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研究分担者 |
日高 義将 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, 専任研究員 (00425604)
押川 正毅 東京大学, 物性研究所, 教授 (50262043)
衛藤 稔 山形大学, 理学部, 准教授 (50595361)
木村 太郎 慶應義塾大学, 経済学部(日吉), 助教 (90760794)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | トポロジカル物質 |
研究実績の概要 |
トポロジカル相とその分類や拡張、素粒子論や超弦理論との関係を探るため、次のような研究を実施した。 まず、電気分極の一般論を整備し、これを活用したトポロジカル相の定式化を進めた。また、境界のある共形場理論を応用し、不純物近傍における朝永・ラッティンジャー流体の相関関数を解析的に求め、密度行列くりこみ群による数値計算で検証した。 次に、位相的ソリトンによるブレーンワールドの構成について、長年の課題であったゼロ質量ゲージ場の局在問題をヒッグス場の凝縮によって自然に説明した。またヒッグス2重項が2つ存在するような拡張標準模型において新しいトポロジカルに安定な状態を発見し、模型に対する新しい制限が出ることを指摘した。 また、ハドロン物理学との関連に関しては、カイラルな粒子に対する運動論であるカイラル運動論を用いて、量子異常に関係した輸送現象を調べた。特に粒子間の衝突に起因した散逸輸送について、温度勾配と電場に垂直に流れるカレントや磁場に並行なシェアフローがある場合にその磁場に垂直に流れるカレントなど新しい輸送現象が存在することがわかった。 さらに、素粒子論との関係としては、超対称ゲージ理論の真空構造に創発する量子代数的構造、およびその可積分構造の解明を試み、特に non-simply-laced型の箙ゲージ理論の構成、対応する量子可積分系との関係を明らかにした。 超弦理論との関係に関しては、ホログラフィー原理を用いて周期外場下のディラック絶縁体の相図の解析を行い、外場に適切な周期を与えると容易に相転移が起きることを示した。また、その手法を応用し、時間依存する新しいブラックホール解の構築に成功した。さらに、ホログラフィー原理で発生する創発時空を、物質のスピン配列から生まれた深層ニューラルネットワークと考える方法を探求し、QCDに双対な時空をニューラルネット上で創発させることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、分拠については、Restaらによる電気分極の定式化では、あるユニタリ演算子の期待値の偏角を電気分極と考える。このユニタリ演算子は、トポロジカルに非自明なゲージ変換にほかならない。この関係を用い、系の動的性質と電気分極の関係を見出しつつある。 次に、位相的ソリトンによるブレーンワールドの構成については標準模型を比較的小さな変更だけで長年の懸案が解決できることを示すことができ、LHCなどの実験と比較検証が可能な段階に近づいた。拡張標準模型に位相的な宇宙紐が存在することなどを発見し、これまでになかった新しい展望が開けてきている。 また、ハドロン物理学にも応用されるカイラル運動論に関して、衝突項まで含めた基本的な理論は概ね完成し、衝突項に起因した様々な輸送現象も調べることができたので進捗状況は概ね順調である。 さらに、トポロジカル物性における一つのキーワードであるトポロジカル秩序に対して、離散的な非局所対称性 (高次対称性)の自発的対称性という観点から特徴付ける試みを行っており、いくつかの具体例を用いた考察を進めている。 素粒子論、特に超弦理論と重力理論との関連については、本研究で得られたブラックホール解の安定性をしらべ、漸近AdS時空におけるブラックホールのダイナミクスの研究が進められている。この研究の応用として、多くの時間周期性を持つブラックホール解が見つかっている。また、ホログラフィー原理と離散幾何学をつなぐ研究においては、ニューラルネットワークとの同一視研究が大きく進捗し、新しい視点が得られつつある。
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今後の研究の推進方策 |
今後は次のように研究を進める予定である。まず、トポロジカル相における分極については、電気分極はLieb-Schultz-Mattis型定理と深く関連しており、またLieb-Schultz-Mattis定理は量子異常と結びついている。これらの関係を深く考察し、量子異常の観点から量子臨界状態の分類を進めたい。また、ソリトン・ブレーンワールドではゲージ場の局在を説明する必要があり、非摂動効果によって実現するだろうと説明されてきた。我々の模型では定量的な評価が可能であり、この背後には物性系のフェルミオン・エッジモードとの深い関係が存在すると予想される。そこでトポロジーとボゾン・エッジモードの関係を明らかにする。カイラル運動論との関係においては、現実の世界では、カイラル対称性は質量項の存在によって陽に破れている。そのような破れが存在する場合には、カイラル運動論が修正されるはずである。どのようにカイラル運動論が修正され、カイラリティやスピンなどがどのように時間とともに散逸していくか今後調べていきたい。さらに、素粒子論との関係においては、次年度以降も特に場の量子論的手法に基づいたトポロジカル物質系の研究を推進する。特に近年提案されているトポロジカルな近藤効果に対する共形場理論を用いたアプローチ、およびそのQCD 近藤効果に対応する現象などについて重点的に研究を進めていく。さらに、超弦理論と重力理論に関しては、本研究で用いられたブラックホール解の構成方法を応用し、漸近AdS時空中のブラックホールのダイナミクスの終状態を解明する。また、その現象のゲージ理論側の解釈を行い、周期外場下で起きる新規な物性現象の発見につなげる。離散幾何の一般論とホログラフィー原理、トポロジカル物質の接点を引き続き探っていく。
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