研究領域 | 次世代物質探索のための離散幾何学 |
研究課題/領域番号 |
17H06464
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
青柳 岳司 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 総括研究主幹 (50786241)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | ブロックコポリマー / ミクロ相分離 / ネットワーク / SCF / 粗視化分子動力学 / 自己無撞着場 |
研究実績の概要 |
ブロックコポリマーのミクロ相分離により発現するネットワーク構造の設計、およびネットワーク構造に起因する材料物性の予測を目的として、計算機シミュレーションによる検討を開始した。 ネットワーク構造の設計においては、高分子メソスケールシミュレータであるOCTAを駆使し、単純なジブロックコポリマーのミクロ相分離により得られるダブルジャイロイド(DG)構造に加えて、ブロックコポリマーとホモポリマーをブレンドすることによりダブルダイヤモンド(DD)、およびPlumber's nightmare(P)と言う、各々4分岐、および6分岐構造を持つダブルネットワーク構造を得ることが出来た。これらの構造は、OCTA/SUSHIで用いる実空間SCF法においては、今回初めて計算に成功したものであり、今後様々なネットワーク構造の探索が本手法で実施できる事が期待される。 材料物性の予測においては、伸長時の弾性挙動に関して球状構造(BCC)およびDG構造を対象にSCF計算と粗視化分子動力学のハイブリットシミュレーションにより検討を行った。ハードセグメントが球状ドメインを形成するBCC構造に比較して、ネットワークを形成するDG構造は、伸長時においてハードセグメントのネットワークの寄与により、ハードセグメントの体積分率比以上に大きな応力が発現することが確認された。さらにソフトセグメントがハードセグメント間をブリッジするABA型のトリブロックコポリマーにおいては、ソフトセグメント由来のゴム弾性により高伸度における応力の顕著な上昇が観察された。 この結果はDGおよびBCC構造の実測結果と定性的に一致し、シミュレーションモデルの妥当性が検証された。今後本手法により様々なネットワーク構造の弾性挙動の解析を進められることが期待される。 加えて他の計画班と定期的な議論の場を設け、次年度以降の連携に関して足掛かりを得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は初年度でもあり、計算機の導入、ソフトウェアの整備等の研究環境整備より開始した。計算機導入、ソフトウェア整備はおおむね予定通りに進み、研究活動の立ち上げがスムースに行え、計画していた項目が順調に進展している。 個々の項目において、ミクロ相分離によるネットワーク構造の予測に関しては、実空間SCF法を選択することにより、複雑な組成の場合におけるモデリング、および構造周期(ユニットセル)の最適化を簡便に行うことができた。さらにSCF法においてはポリマー鎖のコンフォメーションに起因する自由エネルギーを定義することができ、最安定な構造の探索に有効である。しかしながら、散逸粒子動力学(DPD)などミクロ相分離構造を予測する他の方法より計算負荷としては大きくなるので、今後多くのサンプルを得ていくためには計算の効率化が求められる。 ミクロ相分離構造を持つ系の弾性挙動に関して、ダブルジャイロイドのようなネットワーク構造の応力-ひずみ挙動のシミュレーションはこれまで報告はなく新規な結果であるが、これまで実施者は球状ドメインを有する熱可塑性エラストマーを対象にし検討を続けてきて多くの知見を有するので、今回のネットワーク構造への適用もスムースに行うことが出来た。 さらに、総括班メンバーとの議論を進めることにより、実測データとの比較を行い、シミュレーション結果は実測結果を定性的に再現することを確認した。さらに実測では明らかにならない応力発現メカニズムに関しても推測が可能になった。 変形時の構造変化に関してさらに詳細を解析することが望まれたが、それに関しては現時点ではまだ一部の達成にとどまっており今後の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
今後、ネットワーク構造の設計に関しては、当初の計画に従い機械学習の導入を検討していく。手始めにポリマー鎖の構造と相互作用パラメータχから既存の文献あるいは自己無撞着場計算で得られる相図を予測(classification)することを試みる予定である。もっとも簡単な事例としてはジブロックコポリマーを対象とし、体積分率とχN(Nは鎖長)を記述子として、球、シリンダ、ラメラ、ジャイロイドなどの分類をする回帰を行う。この場合は文献の相図を用いることが出来る。これを発展して任意のポリマー構造を記述子として用いていく予定であるが、分岐等複雑なポリマー構造を記述子とするための方法に関しては、数学的な手法が必要になることが想定されるので他班との連携が有効と期待される。また、その際の相分離構造は既知でないものも含まれるので、シミュレーションによりデータの蓄積を図っていく。 予測する相分離構造も当初は上記のような対称性の高い構造に限定していくが、将来的には対称性の低いネットワーク構造も考慮していく必要がある。この際もネットワーク構造の分類、数値化のために他班との連携を計画する。 弾性挙動解析に関しては、伸長時に加え、実材料との比較を行うために、応力解放後の回復挙動に関しても検討を行う。さらに伸長-回復時の相分離ネットワーク構造およびポリマー鎖の構造変化を詳細に解析し、新規構造の設計のために物性発現のメカニズムの解明を進めていく。また本手法を他のネットワーク構造にも展開し、ネットワーク構造と弾性挙動との相関に関しても検討を進めていく予定である。
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