研究領域 | 次世代物質探索のための離散幾何学 |
研究課題/領域番号 |
17H06465
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小谷 元子 東北大学, 材料科学高等研究所, 教授 (50230024)
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研究分担者 |
楯 辰哉 東北大学, 理学研究科, 教授 (00317299)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 微分幾何学 / 離散幾何学 / 極小曲面 |
研究実績の概要 |
触媒など優れた機能を持つ複雑な多孔質構造を記述するために、雑音的な情報を無視し本質的に重要な構造のみを取り出す数学的手法を開発した。優れた機能を持つ物質から、多重ネットワーク構造を取り出し、そこから様々な幾何学的不変量を計算し、物質分離・輸送を最適化するために数理モデルを構築し、数値計算により機能との相関を解析し、論文として発表した。また、古典的な曲面論の離散版となる離散曲面論を構築し、特に曲率や平均曲率の概念の導入および抽象的なグラフの分類と構造・機能計算を行い、また収束理論と極限に現れる特異点について研究し、これを論文として発表した。 より具体的な物質に対して述べる。グラフェンにドーピングを行うことで曲面構造を導入し、触媒機能を創発する研究において数理モデルによる最適構造を特定した。数学からの提案された構造の実現として期待されるMOFに関しては、組み合わせ論、結晶群論的に理解する試みが開始されているが、より高度な低次元トポロジー、結び目理論と、離散幾何学を融合することで系統的な数理的分類・特徴付けを試みた。既存のMOFに対してパーシステント・ホモロジーを用いたよい機能を持つ構造の検索アルゴリズムの開発を進めることができた。更に、weaving という構造変形に一定の自由度を持つが大域的な構造が保存されるネットワーク構造に関する研究を進め、論文として投稿した。 A03-2, A03-3との合同勉強会、定期セミナー、および国際研究会を開催し、またA02, B01とは共通の課題があるため、情報交換を行った。 海外で開催される予定であった研究集会は新型コロナウイルス感染症による影響で延期された。一方、領域や研究班ではオンラインを活用した国際研究会を開催し、成果発表を積極的に行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画どおり、多孔質物質に対してネットワークを用いて数理モデル化し幾何構造の抽出することや、動的なネットワークにおけるスペクトル状態の解析を行った。特にネットワークを細分化する過程においてその収束理論特に特異点の分類を行い数学の論文としてまとめることができた。離散幾何解析の発展に寄与することができた。 また、実際の優れた機能を持つ物質から、多重ネットワーク構造を取り出しその様々な幾何学的不変量を計算し、物質分離・輸送を最適化するために数理モデルを構築し、数値計算により機能との相関を解析するという課題について、2つの物質を取り上げた。カーボンチューブを糸のように織り込んだ物質や、物質輸送を目指す巨大な分子などを絡んだネットワークweaving として数理モデルを構築しまた分類のアルゴリズムを確立した。トポロジカルな分類と幾何学的な安定配置を調べることで、構造変形に一定の自由度を持つが大域的な構造が保存されるネットワーク構造に関する研究を進める事ができた。また、炭素ガスの吸着や創薬などで大きな役割を果たすMOFに対して、まずは既存の構造と機能が知られているものに対してパーシステント・ホモロジーを用いてよい機能を持つ構造を検索するアルゴリズムの開発を進めることができた。 このように当初に企画していた「数理の理論としての進展」に関して論文を発表し、またそれを「実際の物質に適用し良い構造を提案」するという事に対してもアルゴリズムを開発するなど、計画をしっかりと進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
上記に記したように、数理理論を開発し、またそれを既知の物質に適用し、機能と構造の相関を見るアルゴリズムの開発を行うことができた。特に、数学理論と相性のよい物質系を絞りこむことができたことが大きな成果であると考えている。今後は、これを用いてデータベースにある構造を検索し、未知の良い機能をもつ最適構造を提案することを計画している。成功すれば大きなインパクトとなる。また、数理としては幾何の観点で離散曲面列の収束と特異点をしらべることができたが、更にこの上での確率過程列とその収束理論へと発展させたい。コロナ禍での対面の研究交流特に国際的な交流が制限されていたが、対面形式での議論は重要でありそのような機会を設けたい。また、関連の学会で成果を発表し、この学術領域を世界に周知することを積極的に行う。
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備考 |
【アウトリーチ】鈴木康平 京都大学理学部 理学部専門基礎科目「理学と社会交 流 II」て、外部講師として講演 2020年12月
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