研究領域 | 次世代物質探索のための離散幾何学 |
研究課題/領域番号 |
17H06468
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大西 立顕 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 准教授 (10376387)
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研究分担者 |
久野 遼平 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 特任助教 (60725018)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 数理工学 / トポロジー / 高分子構造・物性 / 構造・機能材料 / 複雑ネットワーク / 化合物フィンガープリント |
研究実績の概要 |
複雑ネットワーク指標を用いて架橋高分子のネットワークを解析し,力学物性との相関を調べた.分子動力学シミュレーションを用いて,様々な濃度で架橋高分子を調製し,計算機上で架橋高分子を生成し,一軸伸長を行った.架橋高分子の架橋点をノード,高分子鎖をリンクとしてネットワークを表現し,クラスター係数,中心性,グラフ密度,モジュラリティなどの複雑ネットワーク理論に基づくネットワーク指標を算出して解析を進めた.弾性率の架橋濃度依存性から,架橋高分子の力学物性はネットワーク構造に依存することが判明した.複雑ネットワーク指標に基づいて,架橋高分子の力学物性を説明できる可能性が示された. 架橋高分子のエントロピー弾性における力学物性は,架橋点間の距離にも依存していると考えられるが,ネットワーク指標は基本的にネットワーク構造のみから算出されるため,分子の実空間上の位置や分子間距離の情報を考慮できていない.そこで,架橋点間距離とネットワーク指標の両方がネットワークポリマーの力学物性にどのような影響を与えているかを調べるために,人工的な方法で架橋させたネットワークポリマーを生成し,解析した.一軸伸長させた際の架橋点間の広がりは,架橋点間距離と中心性の二つに依存することが示唆され,複雑ネットワーク指標の有用性が示された. 膨大な化学反応データベースを計算機で解析して逆合成経路を予測するためには,複雑な分子・化合物の構造をフィンガープリントで表現し,二つのフィンガープリントの類似度を算出する.フィンガープリントは超高次元のベクトルのため,類似度計算には膨大な計算時間がかかる.そこで,類似度の数学的性質を用いて効率的に計算するアルゴリズムの開発を進めた.そして,複雑ネットワーク科学におけるクラスタリングの手法を用いて,化合物空間がどのような幾何学的特徴を持つのかを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高分子材料の分子動力学シミュレーションを専門とする研究協力者と,複雑ネットワーク科学とデータ科学を専門とする研究代表者と研究分担者との共同研究により,ネットワークポリマーのネットワーク構造が力学物性に及ぼす効果を示すことができ,構造と機能を結びつける一つの具体例を示せた.一軸伸長させた際のネットワークポリマーの力学物性のシミュレーションは計算時間が膨大にかかるため,多数の条件下での解析を十分に行うことができないという問題に直面したが,研究代表者がこれまでに行ってきたスパコンを活用した大規模経済データの解析手法を応用し,研究協力者の高分子材料シミュレーション手法の知見を組み合わせることで,多数の条件下でスパコン上で効率的に計算を実行することができたおかげで研究を効果的に進められた.
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今後の研究の推進方策 |
エラストマーに限らず他の材料系に対しても複雑ネットワーク指標を用いた構造物性解析を行い,ネットワーク指標による物性評価の一般化を検討する.実際の実験室において,様々なネットワーク構造を持つ高分子材料を作成し,それらのマクロな物性の性質を測定した実験データを研究協力者から提供いただき,情報科学的手法を用いて実験データとマクロな物性の関係性を解析する.また,粗視化分子動力学を用いてブロックコポリマーのシミュレーションを行い,様々な相分離構造を計算機上に生成したデータを解析することで,結晶構造だけでなく相分離で形成される複雑なネットワーク構造を定量化する手法を開発する.
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