研究領域 | 次世代物質探索のための離散幾何学 |
研究課題/領域番号 |
17H06469
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
一木 輝久 名古屋大学, 未来社会創造機構, 特任准教授 (40711156)
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研究分担者 |
大関 真之 東北大学, 情報科学研究科, 教授 (80447549)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 統計力学 / 機械学習 / マテリアルズ・インフォマティクス / 最適化問題 / 量子アニーリング |
研究実績の概要 |
本研究の目的は材料開発をアシストする人工知能を開発すべく、1.材料の構造ー機能の相関を抽出し、材料観察データから材料物性を明らかにする、2.最適な計測法を提案する、3.材料観察データとそれを読み解く機械学習の背景にある数理を解明し、推定を高速・高精度化することである.これによって、データサイエンスの応用としてのマテリアルズ・インフォマティクスにとどまらず、数学的に妥当な新しい情報科学と物理学の融合領域の学理構築を目指すものである. 当該年度は1に対して[1]燃料電池の電極材料であるnafionの構造と力学特性の関係を機械学習的に解明するための構造データの自動生成、[2]高分子結び目のニューラルネットワークによる自動分類、2に対して[3]雑音環境下でのデータ取得に適した符号化の機械学習による自動獲得、3に対して[4]解へ高速に収束するマルコフ連鎖モンテカルロ法の離散最適化問題への拡張を実施した. [1]ではマルチスケール解析で得られたデータをVAEで学習し、分子構造と相関のあるメソスケール構造を得ることができており、これを用いて高分子のメソ構造と物性の相関を学習できると期待される.[2]では結び目高分子のトポロジーを保存しつつエネルギーを最小化する配位を得ることに成功しており、観察された高分子結び目の自動分類が可能になると期待できる.[3]の提案手法では未知の雑音特性を学習できるため、幅広い実験に対し柔軟なデータ取得法を提供できると期待される.[4]では実用上多く直面する離散最適化問題の高速な汎用解法を目指した.高速化が保証された系統的なアルゴリズムは連続系でしか確立していなかったが、今回、グラフ理論を用いた解析によって離散状態と連続状態での高速アルゴリズムの対応関係を見出した.これにより数学的に保証されたハイパフォーマンスの離散状態最適化ソルバーを開発できると期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究実績の概要」で挙げた課題1の研究項目[1]は本研究領域の掲げる数学との協働による成果であることは特筆に値する.しかし、研究項目[1]では結び目の標準化に計算時間がかかっており、研究項目[4]の理論をもとにした高速化が求められる.また研究項目[2]では高分子のメソ構造を大量に生成することはある程度できるようになったものの、構造と物性を結びつける学習までは完成しておらず、物質の構造と機能の相関抽出という目的達成のためには早急に物性の回帰モデル学習を実装することが求められる. 課題2については実験に応じた柔軟なデータ取得ができるよう機械学習を利用しており概ね成功しているが、入力データの高次元化に伴う学習時間の大幅な増大をいかに抑えるかが課題であることがわかった.高速な学習アルゴリズムの実装や、より実験に即した入力データを仮定することにより学習パラメーターの探索領域を狭めるなど対策を講じる必要がある. 課題3については従来、イメージ先行で開発が進んでいた高速なマルコフ連鎖モンテカルロのアルゴリズムに対して、数学的に開発の指針を立てられたことが大きな成果といえる.この成果により、過去に提案された高速なアルゴリズムのいくつかは、従来の説明ではその高速性が保証されないことが示された.この成果は研究項目[2]および[3]や他の分野へ援用が可能であり、今後の研究加速が期待される.また、量子アニーリングによる最適化器の実装が同時並行で進行しており、ここで得られた理論との強調による成果が期待できる. 以上のように課題3の成果による波及効果が期待できるものの、現時点での課題1および課題2の困難を鑑みて本研究は「やや遅れている」と結論づ けた.
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」で述べた通り、課題1および課題2の困難は課題3で得られた成果によって克服できる可能性がある.課題3では現在までに提案されているアルゴリズムを超える真に高速なアルゴリズムを提案することを目指す.また、課題1および課題2に関しては、アルゴリズムの実装およびその高速化がボトルネックとなっているため、まずは現在までに確立しているアルゴリズムの適用による困難の克服を図るとともに、課題3による新しいアルゴリズムが完成次第、その適用も試みる. また、分野横断的に新たな学理を構築するため、異分野との連携を強化していく予定である.機械学習、データサイエンス、マテリアルズ・インフォマティクス は応用段階においては実データが必要不可欠であり、特に課題1および課題2では実験班との連携が欠かせない.一方、マテリアルズ・インフォマティクスを取り巻く実情を鑑みると、必ずしも潤沢なデータを手に入れることができるとは限らない.そこで、本班と実験班だけではなく、「バーチャルな実験データ」の作成も念頭におき、本班、実験班、シミュレーション班、数学班の4者での協働を強化する.従来より本研究班は、理論班と実験班の両者の機動性を高めるため、班の連携と独立性の両面を担保できるよう、 ディベロッパー側の立場を取って手法そのものを主な研究の対象としてきた.研究項目[2]で数学からの助言にヒントを得て結び目の変形をアルゴリズム的に実装できたように、高品質な成果をできる限り多く生み出すため、今後も数学班との連携を強化していく.現在までの研究で表面化した困難の多くは、数学の深淵な問題と関連しているため、数学班との連携をより強化することで課題解決 できる可能性がある.
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