研究領域 | 植物の生命力を支える多能性幹細胞の基盤原理 |
研究課題/領域番号 |
17H06472
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
林 誠 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, チームリーダー (30291933)
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研究分担者 |
石崎 公庸 神戸大学, 理学研究科, 准教授 (00452293)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | ゲノム / 発現制御 / 発生・分化 / 植物 |
研究実績の概要 |
植物では個体発生が完了してから新たに器官が誘導されることがあり、既に運命決定され分化した細胞がリプログラムされ幹細胞を新生する。しかしながら、このリプログラミングによる植物幹細胞の新生機構の原理は明らかではない。そこで、マメ科植物の根粒形成およびコケ植物の杯状体形成に着目し、ある特定の分化細胞で幹細胞新生の鍵となる転写因子が活性化される機構とその鍵転写因子が分化細胞から幹細胞を新生する機構の2点を解析する。 本年度は、根粒特異的転写因子NINが転写発現を調節する標的遺伝子を網羅的に探索した。NINの一過的発現などによるRNA-seqと、NINのChIP-seqとの比較解析をおこなった。結果、NF-YA1など既知の標的遺伝子の他、根粒形成に関与することが既に明らかとなっている幾つかの遺伝子が転写制御の標的となっていた。そこで、これまでに明らかとなっていない標的遺伝子について、機能解析に着手した。 また、国際共同研究で取り組んできたゼニゴケのゲノム解読の成果を論文として発表した(Bowman et al. 2017, Cell 171: 287-304)。ゼニゴケは他の植物種と比較して、植物の発生過程や生理機能の制御に関わる遺伝子の重複が極めて少ないこと、そしてゼニゴケが陸上植物の基本的な分子メカニズムの祖先型をもつことなどが明らかになった。 上記の研究成果をベースに、ゼニゴケにおいて幹細胞新生を制御するR2R3-MYB型転写因子GCAM1については、ステロイドホルモンによる機能誘導系を利用しRNA-seqによる下流の遺伝子制御ネットワークの解析を進めた。またGCAM1遺伝子コーディング領域のC末端側に蛍光タンパク質Citrine遺伝子をノックインしたGCAM1-Citrine株の作出に成功し、GCAM1下流のターゲットをクロマチン免疫沈降法により解析するための準備を整えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
根粒特異的転写因子NINについては、標的遺伝子のリストアップおよび一部でそのNINによる発現制御の裏付けが取れ、さらに根粒形成における遺伝学的解析が進んでいる。 幹細胞新生を制御するGCAM1については、関連する制御因子候補の同定や機能解析が順調に進んでいる。論文発表に向けたデータもまとまりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
NINが転写発現を調節する標的遺伝子のうち転写因子に的を絞り、分子遺伝学的に機能を明らかにする。既に報告した標的遺伝子のうち、側根形成に関与することが示唆されたものがあったこと、かつ進化的に根粒形成は側根形成を流用したと仮定していることから、特にこれまで側根形成に関与することが報告されている転写因子について、それらの根粒形成における役割を解明する。加えて、分子遺伝学的に同定した、NIN遺伝子の発現調節に関与する新規因子の根粒形成における機能を明らかにする。さらに、PSACの蓑田らと共同で、1細胞RNA-seqの条件検討をおこなう。これは領域内で1細胞解析に係わる予定の研究に資するとともに、皮層においてNINが発現する細胞に特異的な遺伝子発現を解析するための算段でもある。 GCAM1-Citrineノックイン形質転換体を詳細に観察し、GCAM1の発現動態を詳細に解析する。またGCAM1の機能誘導系をもちいた時系列RNA-seq解析から得られたGCAM1下流の制御因子候補について、GCAM1-Citrineノックイン株を利用してクロマチン免疫沈降実験を行い、GCAM1のダイレクトなターゲット遺伝子を同定する。また、GCAM1の機能を誘導し、幹細胞が増殖した組織におけるクロマチン動態の解析系を構築する。植物細胞の分化状態を制御すると考えられる幾つかのヒストン修飾について、ゼニゴケで実績のあるヒストン修飾抗体を用いたウェスタンブロットや免疫染色実験を試みる。その他、GCAM1の発現を制御するサイトカイニンシグナル伝達系に関して解析(梅田班との共同研究)を進めるとともに、GCAM1のパラログGCAM1-likeの解析(西浜班との共同研究)も進める予定である。
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