研究領域 | 植物の生命力を支える多能性幹細胞の基盤原理 |
研究課題/領域番号 |
17H06474
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
山口 信次郎 東北大学, 生命科学研究科, 教授 (10332298)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 植物幹細胞 / シグナル分子 / 植物 / シロイヌナズナ / イネ |
研究実績の概要 |
イネのplastochron1 (pla1)変異体やシロイヌナズナのkluh(klu)変異体は、一定期間に着ける葉の数が多い突然変異体であり、腋芽幹細胞を生成するタイミングが野生型と比較して速くなっている。これまでの研究から、PLA1/KLU遺伝子はシトクロムP450酸化酵素(CYP78A)をコードすることが明らかにされている。CYP78Aの組換えタンパク質は、脂肪酸の一種であるラウリン酸を試験管内で酸化するが、その生成物である12-ヒドロキシラウリン酸を投与してもklu変異体の表現型は相補されない。また、cyp78a変異体において12-ヒドロキシラウリン酸の内生量は低下していなかった。以上のことから、ラウリン酸は植物体内におけるCYP78Aの真の基質ではないと考えられる。本研究では、CYP78Aの植物体内での基質および生成物の同定を目指している。本年度は以下の実験を行った。 (1) PLA1遺伝子が発現しているイネの茎頂部をレーザーマイクロダイセクション法により単離し、トランスクリプトーム解析を行った。pla1変異体と野生型との比較を行うことにより、PLA1応答遺伝子群を同定した。現在、これらのデータを詳細に解析し、CYP78Aシグナルに対する応答を検出するためのマーカー遺伝子の選抜を試みる。マーカー遺伝子が得られた場合は、CYP78A遺伝子を発現する植物組織の抽出画分から、マーカー遺伝子の発現を誘導(または抑制)できる化合物を探索する。 (2) 前年度までにシロイヌナズナのKLU遺伝子をステロイド誘導性プロモーターの制御下で発現する形質転換シロイヌナズナを作出した。本年度は、液体クロマトグラフ-質量分析装置を用いて、KLU遺伝子の発現誘導後に変化する代謝産物の網羅的な解析を行った。候補となるピークが得られたため、今後再現性の確認を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
pla1変異体と野生型の比較トランスクリプトーム解析を行った。PLA1遺伝子は茎頂部の葉原基の基部で発現が強いことから、葉原基を含む茎頂部をレーザーマイクロダイセクション法により単離し、RNA抽出の材料に用いた。RNAシーケンスを行うことにより、トランスクリプトーム解析を実施した。その結果、pla1変異体で発現量が有意に上昇あるいは低下している遺伝子群の同定に成功した。詳細については、現在、データを解析中であるが、いくつかの興味深い知見が得られた。pla1変異体においては、PLA1遺伝子自身、および他のCYP78A遺伝子の発現量が高まっていたことから、PLA1経路には負のフィードバック制御機構が働いている可能性が示唆された。また、ジベレリンやサイトカイニンの代謝に関わる遺伝子の発現量が変化していたことから、pla1変異体の茎頂部においては、これらのホルモン内生量が変化している可能性が示唆された。今後は、シロイヌナズナにおいてもCYP78Aによって制御されるオルソログを見出し、それらをマーカー遺伝子としてCYP78Aシグナルの探索に用いる予定である。 もう一つのアプローチとして、液体クロマトグラフ-質量分析装置を用いて、KLU遺伝子の発現誘導後に変化する代謝産物の網羅的な解析を行った。シロイヌナズナの根を材料に用いた。KLU遺伝子の発現誘導後に増加あるいは減少するピークの候補が得られたことから、今後異なる実験条件におけるKLU遺伝子応答性の検討等を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでにイネの茎頂部におけるPLA1応答性遺伝子群を得ることができた。まず、データを詳しく解析し、イネ茎頂部におけるPLA1応答性遺伝子群の特徴を理解する。次に、茎頂部への化合物の投与が容易なシロイヌナズナにおけるKLU応答性遺伝子(イネのPLA1応答性遺伝子のオルソログ)を見出す。シロイヌナズナのKLU応答性遺伝子をマーカー遺伝子として、植物組織の抽出画分から、マーカー遺伝子の発現量を変化させる化合物の精製を進めて行く。 液体クロマトグラフ-質量分析装置による網羅的代謝産物解析により得られたピークに関しては、まず、KLU遺伝子発現に対する応答性の再現性を確認する。さらに、これらのピークが他の組織や栽培条件においてもKLU遺伝子発現に応答して変化するかどうかを検討する。
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