研究領域 | 植物の生命力を支える多能性幹細胞の基盤原理 |
研究課題/領域番号 |
17H06476
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
鳥居 啓子 名古屋大学, トランスフォーマティブ生命分子研究所, 客員教授 (60506103)
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研究分担者 |
近藤 侑貴 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (70733575)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 植物幹細胞 / 気孔 / 維管束 / クロマチン制御 / 転写因子 / シグナル伝達 / 細胞周期 / 転写制御モチーフ |
研究実績の概要 |
植物は、 維管束分裂組織など永続性を持つ幹細胞にとどまらず、一過的で限られた多能性を有する幹細胞をも生み出す。中でも、ガス交換や蒸散を制御する気孔の幹細胞は、その誕生と終焉が姉妹マスター因子によって厳密に制御されるため、幹細胞性の維持と分化のモデル系として優れた特徴を持つ。維管束幹細胞は、恒久的幹細胞を維持しながら、それぞれ反対方向へと木部細胞と篩部細胞を生み出し続ける。 本研究は、一過的・恒久的幹細胞の一細胞レベルでの観察と操作が可能な系を確立・駆使し、そのゲノム動態や分裂能を比較解析することにより、植物の多能性幹細胞の本質に迫ることを目的とする。
本研究計画を実施するにあたり、研究代表者(鳥居)は、一細胞レベルでの気孔系譜幹細胞のライブイメージングや改良版INTACT法によるエピゲノム動態の系を立ち上げた。また、気孔の分化過程における全遺伝子発現変動の挙動を解析した。MUTEは、気孔系譜を作る姉妹転写因子SPEECHLESSの標的遺伝子を引き継いで、その発現パターンを強制的に変えることにより、気孔系譜の幹細胞を分化させることが判明した。さらに、一連の細胞周期因子を直接誘導するとともに、これら細胞周期因子を直接抑制する転写因子(FAMAとFOUR LIPS)を直接誘導することが解った。MUTEを頂点とした細胞周期因子の発現制御は、1型インコヒーレント・フィードフォワード回路と呼ばれるもので、この遺伝子制御ネットワーク回路によって、気孔の分化過程に細胞分裂が厳密に一回だけ起こり、2つの孔辺細胞が穴を囲んだ形状の気孔ができることが明らかとなった。研究分担者(近藤)は、維管束分化誘導システムVISUALを用いた分子生物学的解析から転写因子BES1及びBZR1が冗長的に幹細胞分化に働くことを明らかにした。また、幹細胞分化方向を人為的に変えることのできる培養条件(VISUAL-PH)を新たに発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MUTEによる遺伝子制御ネットワークの解明は、指令転写因子が幹細胞を分化させるとともに細胞分裂の回数を厳密に制御する発生ロジックを明らかにしたものであり、動植物を超えた幹細胞の維持と分化に大きな知見を与えるものである。本論文は、米国科学誌Developmental CellにFeatured アーティクルとして出版された(プレビュー解説記事、それに表紙も飾っている)。さらに、米国ワシントン大学とハワードヒューズ医学研究所との共同研究により、メリステモイド細胞を始め、気孔系譜の前駆体細胞や孔辺細胞からINTACT法を用いて核を単離し、ATACシーケンス法とDNaseI高感受性領域の全ゲノムレベルの大規模マッピングが進行中である。この2つの手法は、ゲノム上でヌクレオソームがほどけている領域(すなわち、転写などがアクティブに起こっている領域)を高解像度に同定するもので、INACT法と併せることにより、機構系譜幹細胞の分化を規定するゲノム状態に迫ることを目指す。
また、維管束幹細胞に関しては、幹細胞の多能性を検証できるVISUAL-PHを新たに確立した。本領域で課題となっている1細胞解析のため、VISUAL誘導下における1細胞単離の条件検討をすすめ、シングルセルにおけるmRNA定量解析がワークすることを確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、 まず、ATACシーケンス法とDNaseI高感受性領域の全ゲノムレベルの大規模マッピングINACT法と併せることにより、機構系譜幹細胞の分化を規定するゲノム状態に迫ることを目指す。さらに、 新学術連携内共同研究、および米国ワシントン大学との共同研究を介して、一細胞レベルでの解析系を立ち上げることにより、気孔系譜幹細胞一つ一つの個性(ばらつき)を明らかにしていきたい。しかしながら、これらの一細胞レベルの解析においては、実験的ばらつきと生物学的ばらつきを明瞭に区別する必要があり、バイオインフォマティクス専門家との連携が重要になる。さらに、気孔の分化を制御する転写因子MUTEが気孔系譜の幹細胞性を停止させるメカニズムを解析する。研究代表者らは、前年度、MUTEによって気孔を作る細胞が一回だけ分裂するメカニズムを明らかにしたが、同時に、MUTEによって特異的に発現抑制される細胞分裂因子も見つかっている。今年度は、それら一連の因子が、気孔系譜の間細胞分裂(非対称分裂)に関わる可能性を検討する。
維管束幹細胞に関しては、新たに確立したVISUAL-PHと条件検討をおえたシングルセル解析系を組み合わせることで、維管束幹細胞の1細胞レベルでの多様性と多分化能性について解析を進めていく。
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備考 |
成果は毎日新聞(2018.1.23 朝刊 総合・社会22面)、中日新聞(2018.1.23 朝刊 社会 25面)、日本経済新聞(2018.5.9オンライン版)に掲載
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