研究領域 | 植物の生命力を支える多能性幹細胞の基盤原理 |
研究課題/領域番号 |
17H06477
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
梅田 正明 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (80221810)
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研究分担者 |
蓑田 亜希子 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, ユニットリーダー (40721569)
坪内 知美 基礎生物学研究所, 幹細胞生物学研究室, 准教授 (70754505)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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キーワード | 多能性幹細胞 / DNA損傷 / ゲノム恒常性 / クロマチン / ES細胞 |
研究実績の概要 |
体細胞にDNA変異が蓄積するのを防ぐため、動物では重篤なDNA損傷を受けた細胞は細胞死を起こす。一方、植物の場合はDNA損傷に応答して幹細胞でのみ細胞死が起き、同時に幹細胞ニッチの細胞が分裂を開始することにより、幹細胞を新たに補給する仕組みが備わっている。そこで、本研究では植物における幹細胞の細胞死と再生の機構、および動植物における幹細胞ゲノムの恒常性維持機構を明らかにし、植物幹細胞の維持に働く制御基盤を理解する。 これまでの研究から、DNA損傷に応答して植物幹細胞が細胞死を起こす際に、オーキシンシグナルの低下がゲノムを不安定化させ、細胞死を誘導することが示唆されている。また、オーキシンはクロマチンを凝縮させる作用をもつことも明らかになりつつある。そこで、オーキシンがどのようにクロマチン構造を制御しているのかを明らかにするために、レポーター系統を用いて発現解析を行った結果、根端で発現し、オーキシン応答性を示すエピジェネティック制御因子を見出すことができた。また、オーキシンシグナルの抑制と幹細胞死に働く因子を同定することにも成功した。一方、根端の幹細胞の再生に関しては、ブラシノステロイド受容体の下流で働く転写因子がQC細胞の分裂を活性化し、さらにブラシノステロイド受容体の発現誘導にも関与していることが明らかになった。 ES細胞において遺伝学手法を用いてdNTP産生を操作したところ、dNTP量が多能性幹細胞の生育に大きく影響する点で、線維芽細胞とは異なることが明らかになった。また、ES細胞におけるdNTP産生量は実際に線維芽細胞と比較して低いという定量データが得られたことから、ES細胞では他の非多能性幹細胞とは異なるdNTP量に順応した形のシステムを備えていると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
DNA損傷に応答してオーキシンシグナルを抑制する因子を見出したので、幹細胞のクロマチン構造を制御する上流の分子メカニズムにアプローチできるようになった。また、ブラシノステロイド受容体の下流で働く転写因子は、逆に受容体の発現制御にも関与することが示唆されたので、研究に新たな視点が生まれた。動物細胞では、dNTP量と多能性の相関を見出すことができたのが大きな成果である。
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今後の研究の推進方策 |
エピジェネティック制御因子の多重変異体を作成し、表現型やクロマチン構造の解析を進めていく。また、ブラシノステロイド受容体と、その下流で働く転写因子に関しては、それらがブラシノステロイドシグナルの増強とQC細胞の分裂活性化に関与しているかどうかを、具体的に検証していく必要がある。さらに、ES細胞においてdNTP産生量が低く保たれていることが多能性維持とどのように関係しているのか、また通常dNTP量が低下することにより遺伝子変異導入率が増大することが知られているが、多能性幹細胞はこれをどのように回避しているのか、という点に着目して解析を進める。
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