平成20年度、計画研究班A03-4の衛星観測グループによって指摘された「台風の転向点付近に形成された100kmスケールのパッチ状の高濃度クロロフィル領域」について、計画研究班A03-4の海洋物理モデルグループとの共同研究として明らかにした。一般的に、熱帯域の栄養塩躍層は深さ100-150mに存在し、それより浅い表層では栄養塩が枯渇している。台風の移動速度が時速10km以下になると、台風中央付近のエクマン発散に伴う湧昇が栄養塩躍層を上昇させ、強風によって深くなった海洋混合層に栄養塩が供給されると、衛星観測に見られるようなクロロフィル高濃度が海洋表層に形成されることが明らかになった。栄養塩躍層の上昇は、風応力によるエクマン発散に伴う湧昇と励起された慣性振動との関係で決まり、移動速度が時速10km以上になると、栄養塩が混合層に供給されにくくなる。これらの考察により、高濃度クロロフィル領域は、台風の強度よりも、むしろ移動速度に依存することが分かった。これより、台風の移動速度を観測されたもののように変化させると、衛星観測で見つけられた100kmスケールのパッチ状の高濃度クロロフィル領域を再現することが出来た。また、台風の風速依存性なども調べたた結果、強い台風が停滞した場合という条件によって高濃度クロロフィル領域が引き起こされていることが分かった。鉛直一次元海洋生態系モデルに組み込まれている鉄循環過程や窒素・炭素・酸素同位体に関する過程の高度化や、DMSに関するプロセスベースのモデリングに着手した。
|