1)エアロゾルに含まれる微量元素の海水への溶解度を支配する要因 実験室でのフロースルーシステムを用いた黄砂エアロゾル標準粒子(CJ-2)の溶解実験を実施した。黄砂エアロゾル標準粒子から溶出する鉄の濃度は、人工海水滴下直後と滴下開始7時間後にピークを示し、その一部は直径0.1-0.4ミクロンの微細な粒子として存在した。黄砂エアロゾル標準粒子が海水と接触すると、まず粒子表面の反応性の高い鉄の溶解やコロイド態鉄の流出が起こり、その後、比較的反応性の低い鉄が溶存鉄ならびにコロイド態として徐々に流出すると推察される。また、西部北太平洋で採取した天然の黄砂エアロゾル試料を純水に溶解し、高分解能ICP質量分析計を用いた多元素同時測定について検討を行った。 2)エアロゾルから溶出した微量元素の海水中における物理的・化学的形態 大気から降下した鉱物粒子を起源とする微量金属元素の海洋表層での除去過程を明らかにするため、海水中の希土類元素の挙動について研究を行った。今年度は、西部北太平洋亜寒帯における植物プランクトンブルーム中の希土類元素の分別を解析した。生物起源粒子表面の有機物と希土類元素の錯生成により、除去過程を説明できることが明らかになった。 3)植物プランクトンが利用する微量元素の形態 親潮域の表層水を用いて5日間の船上培養実験を行い、黄砂エアロゾル標準粒子(CJ-2)と無機の硫酸鉄の生物利用能を比較した。現場植物プランクトンの増殖は、硫酸鉄添加により有意に促進され、特にChaetoceros属ケイ藻の応答が顕著であったが、黄砂エアロゾル標準粒子の添加に対する増殖応答は硫酸鉄添加区に比べて非常に小さかったことから、黄砂エアロゾル標準粒子から供給される鉄の生物利用能は硫酸鉄と比べてかなり低いと考えられる。今後、数週間スケールでの生物応答についても調べる予定である。
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