計画研究
黄砂標準試料を用いた溶解実験を行い、金属有機配位子が黄砂中の鉄の溶解に与える影響を調べた。10℃、24時間で溶解した黄砂中の鉄の量は、モデル配位子であるデスフェリオキサミン等を人工海水に添加した系と、無添加系の間で有意な差は認められず、また人工海水と西部北太平洋亜寒帯域表層より採取した天然濾過海水の間にも明瞭な違いがみられなかった。従って、海水中の金属有機配位子の存在が黄砂からの鉄の溶解を直ちに著しく促進する可能性はそれほど大きくないと考えられたが、海洋表層に降下した黄砂粒子は表層に数週間滞留するため、今後より長い時間スケールでの影響を把握する必要がある。南太平洋およびタスマン海の表層において、鉄、アルミニウム、マンガンの分布を調べ、その相違から微量金属元素の海洋表層への供給過程を検討した。アルミニウムの分布は大気を経由して輸送される鉱物粒子の降下量に対応しているが、マンガンの分布については、むしろ沿岸堆積物から水平輸送される過程が重要であることを示していた。鉄については、タスマン海では大気を経由した輸送過程が、南太平洋亜熱帯域では沿岸からの水平方向の輸送過程が重要であることが示唆された。海洋表層においては、微量金属元素分布の比較が、その輸送過程に関する知見を深める上で重要であることが明らかになった。東シナ海およびフィリピン海において、現場表層海水を用いた銅添加培養実験を実施し、植物プランクトンの増殖と銅有機配位子の生成に及ぼす影響を調べた。東シナ海では銅添加の24時間後に、銅有機配位子濃度の上昇とシアノバクテリアおよび小型真核植物プランクトンの細胞密度の増加が観察されたことから、海洋表層への銅などの金属供給に対して、プランクトン群集は有機配位子生成などの応答を示し、表層水中における微量金属元素の化学的形態やその生物利用能を変化させ得ることが示唆された。
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