日本沿岸で採取した大気降下物質に含まれる微量元素の起源と溶解特性を調べた。Fe、Al、Tiなどが黄砂など地殻起源であったのに対し、Cu、Zn、Pb、Niは石炭・石油燃焼などに由来する人為起源の特徴を示し、Mn、Co、Cd、Thは人為起源物質が黄砂に付着するなどして地殻起源のものと一緒に輸送されてくると推察された。人為起源物質の影響を強く受けていると考えられる黄砂時以外の大気降下物質に含まれる微量金属元素は、黄砂時に比べて一般的に溶解し易く、Feの場合は溶存画分の割合が6%前後で、黄砂時の4倍程度高い溶解率を示すことが分かった。 海水中の微量元素は様々な形態で存在するが、植物プランクトンに利用可能なFeと密接な関係があると考えられるFe(II)の分布と挙動を西部北太平洋亜寒帯域およびベーリング海において調べた。西部北太平洋亜寒帯域の表面水のFe(II)濃度は5-43pMと過表の報告値とほぼ同程度であった。Fe(II)は主に光還元で生成するが、その濃度と光量との明確な相関関係は見られず、20pM以上の濃度が12時間以上保たれていた。これは高緯度の低温環境下でFe(II)の酸化速度が遅くなるため考えられる。 西部北太平洋から単離した珪藻株を用いて、大気降下物質に含まれる微量元素の生物利用能を比較検討した。珪藻の増殖速度は大気降下物質から溶け出した溶存Fe濃度と相関を示し、粒子態で残存するFeの大部分は植物プランクトンに利用されないと考えられた。大気降下物質にはCuなど生物毒性を示す微量元素も含まれるが、それらの元素による増殖の阻害作用は認められなかった。インド洋で行った表面水への雨水添加培養実験では、現場で卓越する小型植物プランクトンが1日で応答するのに対して、大型植物プランクトンの増殖が促進されるまで3日程度を要することが示された。
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