西部北太平洋周辺海域へ大気から供給される微量元素には、黄砂など地殻起源のものと石炭・石油燃焼などに由来する人為起源のものがあり、人為起源のものが数倍海水に溶解し易いことが分かった。黄砂についても、大気輸送中に人為起源の硝酸や硫酸の作用を受けるとpHが低下して各元素の溶解率が上昇する傾向がみられた。従って、大気から海洋表層への微量元素の供給を考える上で、人為起源の影響度を評価することが重要になると考えられる。その際、スカンジウムがアルミニウムとともに地殻起源の指標として有効であることが示された。 北太平洋亜寒帯域の表層では、植物プランクトン量の多少の変動に関わらす、溶存鉄濃度が広範囲にわたって極低濃度になっていることが明らかになり、数日から数週間の時間スケールで海水に溶解する微量元素の大部分は、速やかに植物プランクトンに取り込まれていると予想された。一方、西部北太平洋から東シナ海にかけての亜熱帯海域では、黄砂の降下量分布とほぼ対応した西高東低の溶存鉄濃度分布がみられ、その多くは有機錯体として存在していると推察された。また、東シナ海における表面海水中の鉄(II)濃度は70-182pMであり、紫外線を照射して海水中の有機物を分解すると海水中での鉄(II)の酸化速度は有意に遅くなったことから、有機配位子の存在が鉄(II)の酸化速度に大きく寄与していることも明らかになった。 採取した大気降下物質を用いて現場表層海水への添加培養実験を行った結果、特に貧栄養な亜熱帯海域において、微量元素と共に人為起源の無機窒素を多く含む雨水による植物プランクトンの増殖促進作用が大きいことが示された。また、亜寒帯海域への火山灰の降下イベントに対応した現場の植物プランクトンの増殖応答が観測され、火山灰も大気から海洋への微量元素の供給源として重要であることが分かった。
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