1.紐状ミセルの粒子・連続場ハイブリッド・シミュレーション 界面活性剤の自発的会合により得られる紐状ミセルは、分裂と再結合を繰り返すことでミセル鎖間の絡み合いを緩和させ、絡み合い高分子系とは著しく異なる粘弾性特性を示す。このような紐状ミセル溶液を効率よくモデル化するために、ミセル成分を粒子で表現し、溶媒成分を連続場で表現するという粒子・連続場ハイブリッドモデルを開発した。このモデルを用いることで、ミセル成分の絡み合い緩和過程を詳細に扱いつつ、長距離の流体力学的相互作用を適切に採り入れることが可能である。大規模なシミュレーションによりパーコレート濃度近傍においてミセルのサイズ分布がベキ分布に従うことも確認した。 2.流動誘起相分離現象と熱力学相転移との類似性 紐状ミセルなどの複雑液体に高速ずりをかけると、ある速度領域でずり速度の高い領域と低い領域とに分離するシアバンドという現象が知られている。このような現象は平衡から遠い現象であるにもかかわらず、熱力学での一次相転移とよく似た舞いを示す。例えば、応力-ずり速度曲線での応力平坦部の出現や一様流の準安定性などがそれである。これらの類似性は平衡から遠いシステムにも自由エネルギーのような量が存在することを示唆する。我々はこの予想をよりどころに、シアバンディングを定性的によく再現するある力学的な構成方程式(拡散項付きJohnson-Segalman(DJS)方程式)から出発し、方程式の持つ臨界点近傍で方程式の自由度を縮約し、その力学的な構成方程式から自由エネルギーに相当するある量を抽出した。これによりシアバンディングと熱力学での相分離との類似性を、少なくとも臨界点近傍に限って立証した。
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