研究概要 |
ミクロな非平衡ソフトマター系の研究を中心に、今年度は細胞の自発的運動機構に関する研究と単一分子タンパク質の伸張実験において以下の成果を得た。 1. 自発的細胞運動における膜変形と重心移動の相関 細胞運動は究極のアクティブ・ソフトマターと言われる。我々はアメーバ状細胞の膜変形と重心運動の関係を明らかにするため、細胞性粘菌の単一細胞の運動に着目し実験と解析を行った。外部刺激なしで基盤上を運動する細胞の2次元に投影された細胞形態を重心から膜までの距離(振幅 : Amp)を方位角θの関数で時々刻々測定し、重心運動との相関などを調べた結果、一見ランダムに見える膜変形に、3種類規則的なパターン(Elongation, Oscillation, Rotation)が存在することを見出した。細胞の極性形成に関わる分子であるPTENやPI3K分子をノックアウトしたミュータントでは規則パターンが消失し、またミオシン分子の局在が確認されたことから、これらの分子が規則的パターンの生成に関わっていることを示唆する結果を得た。このことから、細胞性粘菌の運動はこれら規則的なパターンのスイッチングを伴いながら全体としてランダムな運動を作り出している可能性を明らかにした。 2. 単一分子タンパク質のアンフォールディングにおける中間状態の観測 タンパク質1分子のレオロジー特性を明らかにするため、SNase単一分子をAFMを用いて伸長し, 従来知られていなかった複数の中間状態が存在し、並列的にアンフォールドすること、また酵素にリガンドが結合するとそれらが消失することなどを始めて見出した。
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