今年度の成果の概要は以下のとおりである。(1)コロイドの温度勾配下における熱泳動現象が溶液に高分子を加えることで自在に制御でき、その効果が非平衡枯渇力という新しいメカニズムによることを解明した。(2)また、非平衡相転移の一つであるDirected Percolationの包括的な実験検証に始めて成功した。(3)さらに、Wet Granular系における新規の界面不安定現象を見出した。以下各項目について述べる。 (1)温度勾配下における物質の輸送は熱泳動現象またはソーレ効果として古くから知られているが、一般に温度勾配による輸送の向き(熱拡散係数の符号)やその強度を理論的に予測することは難しい。我々は、コロイド粒子の熱泳動現象に関して、溶液中に高分子(PEG)を添加することにより、熱拡散の強さを表すソーレ係数の大きさが加えたPEGの濃度に比例して変化すること、さらには本来、ソーレ係数の符号も変えられることを見出した。実際に我々は、種々のビーズやDNA分子、細胞などがこの手法で捕捉、操作できることを示した。今年度はこの現象のメカニズムを明らかにするため、実効的ソーレ係数のコロイド粒径に対する依存性を調べ、それが粒径に比例することを見出し、この現象を非平衡枯渇力という新しい効果で理論的に説明することに成功した。 (2)Directed Percolation(DP)は、吸収状態(入ったら2度と出られない状態)への相転移であり、詳細釣合を破ることから非平衡相転移の典型例であるが、これまで理論的、数値的に長い研究の歴史があるものの実験的な検証がないという状態が30年近くにわたって続いていた。我々は、液晶電気対流における2つの乱流状態の転移が、DP転移であると考え、徹底的な検証実験を行った。その結果、12個の臨界指数と8個のスケーリング関係式が実験精度の範囲内で全て理論的予測と一致することを実証した。
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